4-18 監察者
第四章
七賢者編
第十八話
吹雪が舞う。
白銀の世界に足跡は二つだけ。
アイリスは剣を肩へ担ぎ、目の前の女を見つめていた。
「ずいぶん静かね。」
監察者は答えない。
その瞳だけが、アイリスを映している。
「喋らないタイプ?」
「必要がない。」
初めて返事が返る。
「私は見る者。」
「戦う前に終わっている。」
アイリスは肩をすくめた。
「嫌いじゃないわ。」
剣を抜く。
細身の刀身が月明かりを反射する。
「でも。」
笑う。
「それって面白くない。」
轟音。
雪を裂き、一瞬で距離を詰める。
速い。
だが。
監察者は半歩だけ身体をずらした。
斬撃が空を切る。
二撃目。
三撃目。
四撃目。
全て避けられる。
「へぇ。」
アイリスは一度距離を取った。
「全部見えてるのね。」
監察者は静かに頷く。
「剣筋。」
「呼吸。」
「重心。」
「視線。」
「次の一歩。」
「全て。」
「見えている。」
風が止む。
アイリスは笑った。
「つまり。」
剣を構える。
「見えなきゃいいのか。」
轟音。
吹雪が爆ぜる。
雪煙が一気に視界を覆った。
監察者は動かない。
「無意味。」
静かな声。
「目を閉じても見える。」
その瞬間。
背後から剣が迫る。
監察者は振り返らない。
後ろへ一歩。
剣先が鼻先を掠める。
さらに左。
さらに前。
全て最適。
アイリスの攻撃は一つも届かない。
「嘘でしょ。」
初めて笑みが消えた。
監察者は静かに言う。
「景色を見るのではない。」
「可能性を見る。」
アイリスは小さく息を吐く。
「なるほど。」
剣を下ろす。
「なら。」
笑う。
「面白くなってきた。」
監察者は僅かに眉を動かした。
「何が。」
アイリスは剣を肩へ担ぐ。
「私ね。」
夜空を見上げる。
「昔から。」
「正面から勝ったことないの。」
吹雪が強くなる。
雪が視界を埋め尽くす。
「騙すのは。」
静かに笑う。
「得意なのよ。」
監察者の瞳が初めて細くなった。
「……警戒対象を変更。」
吹雪の中。
アイリスの姿が消える。




