4-17 覚悟の重さ
第四章
七賢者編
第十七話
轟音が神殿を貫く。
ガイアスの拳は迷いなく振り抜かれた。
選定者は未来を見る。
避ける未来。
受け流す未来。
迎え撃つ未来。
幾千もの可能性が本の上を流れていく。
だが、そのどれも最後には同じ景色へ辿り着いていた。
拳が届く。
「……何故だ。」
初めて選定者の声が揺れる。
ガイアスは止まらない。
「未来は選べても。」
さらに一歩踏み込む。
「覚悟までは選べねぇ。」
轟音。
拳が選定者の胸を捉えた。
神殿の床が陥没し、衝撃だけで無数の石柱が崩れ落ちる。
選定者は壁へ叩き付けられながらも、静かに立ち上がった。
服は裂け、口元から血が流れている。
それでも本だけは離さない。
「理解した。」
静かな声だった。
「私は未来を選んでいた。」
「お前は。」
ガイアスを見つめる。
「未来を創っていた。」
長い沈黙が流れる。
ガイアスは肩を回した。
「難しいことは知らねぇ。」
笑う。
「俺は。」
拳を握る。
「仲間が信じた俺になるだけだ。」
その言葉に、選定者は目を閉じる。
本のページが静かに閉じていく。
未来が消えていく。
勝利の未来も。
敗北の未来も。
全て。
「選択とは。」
小さく呟く。
「迷う者だけが持つものだったか。」
ガイアスは何も答えない。
ただ静かに構えた。
選定者も本を閉じる。
もう未来は見ない。
一人の戦士として拳を構える。
「最後に。」
選定者が小さく笑う。
「選ばない未来を見せてもらおう。」
轟音。
二人が同時に踏み込む。
拳が激突する。
衝撃が神殿全体を飲み込み、砕けた天井から光が差し込んだ。
長い静寂。
先に動いたのは選定者だった。
一歩。
二歩。
ゆっくり前へ歩く。
そして。
静かに膝をついた。
「私の敗北だ。」
本が床へ落ちる。
ガイアスは拳を下ろし、静かに息を吐いた。
「いい戦いだった。」
選定者は微笑む。
「選択とは。」
「最善を選ぶことではない。」
ガイアスが頷く。
「背負うって決めることだ。」
二人は互いに笑った。
敵としてではない。
互いの信念を認めた者として。
その瞬間。
神殿全体へ凄まじい殺気が走る。
ガイアスの笑みが消えた。
選定者も空を見上げる。
遠く。
神殿の最奥。
玉座に座ったまま、一度も動かなかった始原が。
ゆっくりと目を開こうとしていた。




