4-16 背負う者
第四章
七賢者編
第十六話
神殿を震わせる轟音が響く。
拳と拳がぶつかるたび、大地が沈み、砕けた石柱が次々と崩れ落ちていく。それでも二人は止まらない。
選定者は静かに距離を取り、本を開いた。
無数の未来が浮かぶ。
勝つ未来。
避ける未来。
反撃する未来。
そのどれもが存在していた。
だが、その全てで身体が重い。
「……未来が乱れる。」
初めて焦りが滲む。
ガイアスは口元を緩めた。
「違う。」
肩を回す。
「未来じゃねぇ。」
「お前自身が乱れてる。」
轟音。
再び踏み込む。
重力が神殿全体へ広がる。
床だけではない。
空気。
瓦礫。
選定者の身体。
全てが同じ重さを背負い始める。
「人は。」
選定者が静かに言う。
「最善を選ぶから生き残れる。」
「だから争う。」
ガイアスは真正面から拳を合わせた。
「俺は違う。」
衝撃が走る。
「背負うって決めた。」
もう一撃。
「だから迷わねぇ。」
さらに一撃。
「選ぶ必要なんかねぇ。」
選定者の足が初めて大きく沈む。
未来は見えている。
それでも。
その未来へ辿り着けない。
「何故だ。」
選定者が呟く。
ガイアスは笑う。
「お前は一番最善という名の軽い道を選ぶ。」
拳を握る。
「俺は一番重い道を選ぶ。たとえ遠回りでもいい」
神殿全体へ重圧が走る。
今までガイアスが操っていたのは重力ではなかった。
覚悟だった。
背負うものが増えるほど、その力は重くなる。
仲間。
国。
民。
命。
全てを背負う覚悟が、そのまま世界を沈めていた。
選定者は本を閉じる。
「理解した。」
静かな声だった。
「その力は能力ではない。」
「生き方か。」
ガイアスは笑う。
「やっと分かったか。」
一歩踏み出す。
神殿が大きく軋む。
選定者は未来を見た。
どの未来にも。
その拳を止める未来は存在しない。
初めてだった。
未来が消えた。
ガイアスは拳を握る。
「これで終わりだ。」
轟音。
渾身の一撃が選定者へ放たれる。




