4-15 重力
第四章
七賢者編
第十五話
神殿全体が軋んだ。
選定者は初めて足を止める。
床は沈み、壁には亀裂が走り、天井から無数の瓦礫が落ち始めた。その中心で、ガイアスだけが静かに拳を握っている。
「……重い。」
選定者が小さく呟く。
ガイアスは笑った。
「そうだ。」
「今まで俺は、自分の拳だけを重くしてた。」
一歩踏み出す。
その一歩だけで神殿全体が震えた。
「でも違った。」
「重くするのは俺じゃねぇ。」
「世界だ。」
轟音。
ガイアスが拳を振るう。
選定者は未来を選ぶ。
右へ避ける未来。
しかし。
身体が動かない。
「……何。」
足元が沈む。
空気まで鉛のように重くなり、選定者の動きが明らかに鈍っていた。
「未来は選べても。」
ガイアスが距離を詰める。
「その未来で動けなきゃ意味ねぇよな。」
轟音。
初めて。
拳が選定者の肩を捉えた。
衝撃で神殿の柱が折れ、奥の壁が大きく崩れる。
選定者は数十メートル吹き飛ばされながらも、すぐに体勢を立て直した。
その瞳には、初めて驚きが浮かんでいる。
「重力……。」
「ようやく気付いたか。」
ガイアスは肩を鳴らす。
「まだ完成じゃねぇ。」
「でも、お前を殴るには十分だ。」
選定者は静かに本を開く。
無数の未来が浮かぶ。
右へ避ける未来。
左へ避ける未来。
受け止める未来。
飛び退く未来。
だが。
その全てで。
身体が重い。
未来は見える。
それでも。
未来通りに動けない。
選定者は静かに本を閉じた。
「面白い。」
初めて感情が混じる。
「未来ではなく。」
「未来へ至る過程を変えたか。」
ガイアスは笑う。
「難しいことは知らねぇ。」
拳を構える。
「俺は目の前の壁をぶっ壊すだけだ。」
轟音。
再び激突する。
今度は選定者も真正面から拳を合わせた。
神殿全体が揺れる。
床が砕ける。
二人の拳は拮抗する。
だが。
ほんの僅か。
ガイアスが押し始めていた。




