4-13 選定者
第四章
七賢者編
第十三話
地下神殿を揺るがす轟音が止む。
空を見上げていたガイアスは、小さく笑った。
「終わったか。」
遠く離れた夜空には黄金の炎がまだ揺れている。
勝ったのか負けたのかは分からない。
それでも。
「あいつなら死んでねぇ。」
そう呟くと、再び拳を構えた。
目の前では選定者が静かに立っている。
「余所見とは余裕だな。」
「違う。」
ガイアスは首を鳴らす。
「仲間を信じてるだけだ。」
その一言に、選定者は僅かに目を細めた。
「信じる。」
静かな声が神殿へ響く。
「人は可能性を信じる。」
「だから迷う。」
一歩踏み出す。
「私は違う。」
空気が変わる。
「最善だけを選ぶ。」
轟音。
ガイアスが踏み込んだ。
右拳。
一直線。
選定者へ叩き込む。
しかし。
届かない。
拳が当たる寸前。
選定者の姿が半歩だけずれる。
いや。
世界がずれた。
轟音。
空振った勢いのまま、ガイアスの身体が壁へ激突する。
神殿が揺れた。
「またか。」
瓦礫を払いながら立ち上がる。
今ので確信した。
速いわけでもない。
避けたわけでもない。
「お前。」
ガイアスは笑う。
「未来を選んでるな。」
選定者は初めて頷いた。
「理解は早い。」
本を開く。
そこには無数の光が浮かんでいた。
一本ではない。
何千。
何万。
数え切れない未来。
「人は常に選択する。」
一本の光が消える。
「右へ進む未来。」
また一本消える。
「左へ進む未来。」
さらに消える。
「戦う未来。」
「逃げる未来。」
光は一本ずつ消え、最後に一本だけが残った。
「私は。」
静かな声。
「最善だけを残す。」
その瞬間。
選定者が消えた。
轟音。
ガイアスの腹へ拳が突き刺さる。
吹き飛ぶ。
立ち上がる。
また拳が届かない。
何度殴っても。
未来そのものを書き換えられる。
「面白ぇ。」
口元の血を拭う。
普通なら絶望する。
だが。
ガイアスは笑っていた。
「だったら。」
拳を握る。
「選べねぇ未来を作ればいい。」
選定者は初めて無表情のまま口を開く。
「存在しない。」
「そんな未来は。」
ガイアスは笑う。
「あるさ。」
肩を回す。
「俺が今から作る。」
神殿の床が砕ける。
ガイアスが再び踏み込む。
その拳は。
今までより重かった。




