4-11 過去を超えるもの
第四章
七賢者編
第十一話
夜空を静かな風が吹き抜ける。
記録者は本を閉じたままグラムを見つめていた。頬には浅い傷が残っている。英雄の攻撃を受けたことではない。**記録したはずの英雄が、記録を書き換えた。**その事実だけが、初めて記録者の心を揺らしていた。
「六代目。」
静かな声が響く。
「お前は歴代で初めて、私の記録から外れた。」
グラムは肩を回しながら笑う。
「難しい話は分かんねぇ。」
拳を握る。
「俺は毎日変わる。それだけだ。」
轟音。
二人が同時に踏み込む。
融合継承。
速さ、力、技、炎。
今度は全てが一つの流れとなり、途切れることなく襲い掛かる。
だがグラムも変わっていた。
全部を受けない。
全部を避けない。
一撃だけを見極め、その一撃だけを崩す。
轟音。
初代の拳を流す。
二代目の踏み込みを半歩で外す。
三代目の連撃へ、自分から肩をぶつけて間合いを潰す。
記録者の動きが、ほんの一瞬だけ乱れた。
「……。」
グラムは逃さない。
黄金の炎を拳へ集め、一歩踏み込む。
轟音。
拳が記録者の胸を捉えた。
初めて。
真正面から。
記録者の身体が大きく吹き飛ぶ。
夜空を裂き、山肌へ激突する。
静寂。
砂煙の中から、記録者は静かに立ち上がった。
傷は浅い。
だが。
今までで最も深い一撃だった。
「理解した。」
記録者が静かに呟く。
「お前は英雄ではない。」
グラムは笑う。
「何言ってんだ。」
「俺は英雄だ。」
記録者は首を振る。
「違う。」
長い沈黙。
「お前は。」
本を開く。
「変化そのものだ。」
その瞬間。
本が激しく震え始めた。
今まで自ら開くことはあっても、震えたことは一度もない。
ページが勝手にめくれる。
記録が追い付かない。
歴史を書き留める速度より、目の前の英雄が変わる速度の方が速い。
記録者は初めて本を強く握り締めた。
「ならば。」
その瞳に初めて闘志が宿る。
「歴史ごと、お前を止める。」




