4-7 融合継承
第四章
七賢者編
第七話
夜空が静まり返る。
記録者の身体に宿った黄金の炎は消えない。その隣へ、さらに別の力が重なっていく。目には見えない。それでも空気が変わったことだけは、グラムにも分かった。
「来い。」
記録者が静かに告げる。
グラムは答えず、黄金の炎を噴き上げて一直線に踏み込んだ。今までで最速の踏み込み。拳は迷いなく記録者の顔面を狙う。
しかし。
届かない。
記録者は半歩だけ身体をずらし、そのまま腹へ拳を打ち込んだ。
轟音。
グラムの身体が吹き飛び、山を砕きながら遥か彼方まで転がる。
「……速ぇ。」
立ち上がりながら呟く。
違う。
速いだけじゃない。
今の動きには見覚えがあった。
歴代最速と呼ばれた二代目焔帝。
あの歩法だった。
「そういうことか。」
グラムは血を拭う。
「歴代を使ってやがる。」
記録者は答えない。
今度は自ら踏み込んだ。
真正面。
避ける気配はない。
グラムも拳を合わせる。
轟音。
夜空が震える。
押し負けた。
拳ごと身体が弾き飛ばされる。
腕が痺れる。
骨が軋む。
「……重い。」
その力にも覚えがあった。
初代焔帝。
誰よりも強く、誰よりも重い拳。
「まだ終わらない。」
記録者の構えが変わる。
重心が落ちる。
呼吸が消える。
無駄がなくなる。
次の瞬間。
肩。
脇腹。
顎。
衝撃だけが走った。
見えない。
どこから攻撃されたのか分からない。
三代目。
歴代最高の武。
記録者は、まるで別人のように戦い方を変えていた。
グラムは吹き飛ばされながら笑うことも忘れていた。
速さ。
力。
技。
一つずつではない。
切り替わる。
いや――
混ざっている。
「ようやく気付いたか。」
記録者が初めて口を開く。
「私は一人の英雄を継承したのではない。」
静かに拳を握る。
黄金の炎が再び揺れる。
「英雄とは積み重ねられた歴史。」
その一言と同時に、初代の怪力、二代目の速度、三代目の武、五代目の揺るがぬ精神、そして六代目の炎が一つの動作へ溶け込んだ。
別々ではない。
完全に融合している。
グラムは息を呑む。
目の前にいるのは記録者ではない。
幾千年積み重ねられた英雄、その歴史そのものだった。




