4-6 継承
第四章
七賢者編
第六話
夜空に揺れる黄金の炎を見て、グラムは静かに目を細めた。
「……俺の炎か。」
見間違えるはずがない。六代目焔帝だけが持つ黄金の焔が、今は記録者の右腕で静かに燃えている。その熱も色も炎圧も、驚くほど自分と同じだった。
「記録した英雄は歴史となる。」
記録者は本を閉じる。
「歴史は受け継がれる。」
轟音。
次の瞬間、記録者が消えた。
炎を纏った拳がグラムの腹へ突き刺さり、その身体は山を砕きながら遥か彼方まで吹き飛ぶ。すぐに立ち上がったグラムは腹を押さえ、小さく笑った。
「違うな。」
記録者は何も言わない。
「その炎は確かに俺の炎だ。でも、俺じゃねぇ。」
グラムは拳へ炎を纏わせ、一気に距離を詰めた。黄金の炎同士が激突し、爆風が夜空を染める。今度は真正面からの殴り合いだった。
互角。
いや、僅かにグラムが押す。
記録者の足が初めて後ろへ滑った。
「やっぱりだ。」
グラムは炎を燃え上がらせる。
「炎は技じゃねぇ。俺が積み重ねてきた全部だ。真似しただけじゃ、本物には届かねぇ。」
長い沈黙。
やがて記録者は静かに頷いた。
「正しい。」
その一言には否定も苛立ちもない。ただ事実を認める響きだけがあった。
「私は英雄にはなれない。だから、一人の英雄を継承しただけでは不完全だ。」
そう言うと、記録者は再び本を開いた。
古びた頁が風でゆっくりとめくられる。
一枚。
また一枚。
夜空に古代文字が浮かび上がり、空気そのものが重く変わっていく。
グラムの笑みが消えた。
本能が警鐘を鳴らす。
今までとは違う。
そう直感した。
記録者は静かに右手を閉じる。
「ならば。」
その瞬間。
黄金の炎の隣に、別の力が宿る。
炎ではない。
もっと重く、もっと古い力。
さらに、もう一つ。
さらに、もう一つ。
記録者の身体へ歴史が積み重なるたび、周囲の空気が震え始める。
グラムは無意識に拳を握り直した。
「……まだ終わりじゃねぇのか。」
記録者は静かに顔を上げる。
「終わりではない。」
その声は、さっきまでより遥かに重かった。
「ここからが、本当の記録だ。」




