4-4 絶望感
第四章
七賢者編
第四話
夜空に轟音が響く。
グラムは何度倒されても立ち上がると、炎を纏ったまま再び記録者へ突っ込んだ。拳、蹴り、炎――攻撃の種類も角度も変え、間合いも変えながら畳み掛ける。
だが。
結果だけは変わらない。
拳は届く。
炎も命中する。
それでも記録者は微動だにしない。
「……ッ!」
今度は炎を一点へ圧縮した。
爆発ではなく、貫くための炎。
焔帝が初めて見せる一撃だった。
轟音。
夜空が白く染まる。
しかし、煙の向こうに立っていた記録者は、小さく腕を払っただけだった。
「終わりか。」
その拳がグラムの腹へ沈む。
鈍い衝撃とともに身体が吹き飛び、山脈を貫いて地面へ叩きつけられた。
グラムはすぐに立ち上がる。
肩で息をしながらも、炎は消えない。
「まだだ。」
再び踏み込む。
今度は距離を詰めず、炎だけを放つ。
巨大な火球。
無数の炎槍。
空一面を覆う火炎。
夜空そのものが燃え始める。
それでも。
記録者は歩き続けた。
炎の中を。
散歩でもするように。
「……効いてねぇ。」
グラムの笑みが、初めて消えた。
◇
地下神殿。
ガイアスも押されていた。
選定者へ拳を振るうたび、未来がずれる。
当たるはずの拳が届かない。
「チッ……!」
力で押し切れない。
そんな相手は初めてだった。
◇
吹雪の中では、アイリスの剣が何十度も空を切る。
監察者は剣を抜かない。
ただ見ているだけで、すべてを避けていた。
「全部見えてるって?」
アイリスは笑おうとした。
だが。
その笑顔は少しだけ引きつっていた。
◇
夜空。
グラムは息を整えながら、静かに記録者を見つめる。
何をしても届かない。
何を変えても効かない。
歴代最強。
そう呼ばれてきた自分の力が、初めて完全に否定されていた。
記録者は本を閉じる。
「六代目。」
静かな声だった。
「お前は強い。」
その一言に、グラムは笑う。
「知ってる。」
「だが。」
記録者は続ける。
「強いだけでは、歴史は越えられない。」
夜風が止まる。
グラムは何も答えなかった。
ただ、拳を握る。
強さだけでは勝てない。
その事実だけが、胸の奥へ静かに突き刺さった。




