4-3 耐性
第四章
七賢者編
第三話
夜空を黄金の炎が染める。
グラムは迷わず踏み込んだ。拳、蹴り、肘、炎――英雄らしい豪快な連撃が途切れることなく記録者へ叩き込まれる。爆発の余波だけで雲は吹き飛び、遥か下の山々が崩れ落ちた。
「終わりだ!」
炎が弾ける。
普通なら跡形も残らない。
しかし、爆煙が晴れると、記録者は静かに立っていた。
焼けた腕を一瞥し、小さく頷く。
「記録した。」
その瞬間、焼け焦げた皮膚がゆっくりと元へ戻っていく。血も傷も、まるで最初から存在しなかったように消えていった。
グラムは眉をひそめる。
「……治癒か?」
返事はない。
考えるより先に身体が動く。
「なら、治る前に叩き潰す!」
轟音。
再び拳が突き刺さる。
確かな手応え。
しかし次の瞬間、グラムの表情が止まった。
拳は届いている。
炎も燃えている。
それなのに、何も効いていない。
記録者は一歩も動かず、静かに拳を振るった。
鈍い衝撃。
グラムの身体が夜空を一直線に吹き飛び、山脈をいくつも砕きながら地平線の彼方まで転がっていく。
瓦礫を押し退け、すぐに立ち上がる。
「ハッ……!」
口元の血を拭い、もう一度飛び出した。
今度は拳ではない。
炎の斬撃。
回し蹴り。
体当たり。
距離も角度も変えながら攻め続ける。
それでも結果は変わらなかった。
当たる。
効かない。
反撃を受ける。
吹き飛ばされる。
それを何度も繰り返す。
夜空には爆発だけが響き続けた。
◇
地下神殿では、ガイアスの拳が選定者へ届く寸前で止まり、アイリスの剣は監察者に紙一重でかわされていた。
どの戦場でも、英雄達が押されている。
七賢者は誰一人、焦っていなかった。
◇
再び夜空。
息を切らしたグラムは、記録者を真っ直ぐ見据えていた。
「何なんだよ、お前。」
記録者は静かに本を閉じる。
「耐性。」
ただ一言。
能力の説明はない。
理由も語らない。
その言葉だけが夜風に溶けた。
グラムは拳を握る。
今まで戦ってきた敵とは違う。
強いから勝てないのではない。
勝ち方そのものが見えない。
それでも炎は消えなかった。
「……面白ぇ。」
その笑みを見た記録者は、初めて僅かに目を細める。
歴代の英雄達も、同じように笑っていた。
だが、その笑みはいつも長くは続かなかった。




