4-2 選択
第四章
七賢者編
第二話
最初に均衡を破ったのはガイアスだった。
「うおおおおッ!」
両腕の籠手を打ち鳴らし、そのまま選定者へ突っ込む。
豪快。
一直線。
避けるという発想すらない。
選定者は静かに右手を上げた。
「選ぶ。」
その瞬間だった。
ガイアスの拳が止まる。
「……?」
届く。
あと数センチ。
それなのに、身体が前へ出ない。
まるで自分自身が、その一歩を拒絶したようだった。
「未来は無数に存在する。」
選定者は淡々と続ける。
「私は、その中から一つを選ぶ。」
次の瞬間。
ガイアスの足元が崩れた。
轟音と共に地面が陥没し、その巨体が地下深くへ飲み込まれる。
それでも笑い声だけは止まらない。
「面白ぇじゃねぇか!」
◇
白銀の世界。
監察者は微動だにしない。
対するアイリスは細身の剣をゆっくり抜いた。
「見てるだけ?」
「見届ける。」
監察者の返答は短い。
アイリスは肩をすくめる。
「じゃあ。」
その姿が消えた。
一瞬で背後へ回り込み、剣閃が首筋を薙ぐ。
しかし届かない。
監察者は振り返りもせず、半歩だけ身体をずらした。
「見えている。」
「全部?」
「全部だ。」
アイリスは初めて笑みを深くした。
「なら、退屈させないであげる。」
吹雪が二人を包み込む。
◇
上空。
夜空を赤い炎が裂く。
グラムの拳が記録者を捉え、炎が何度も爆ぜる。
普通なら立っていることすらできない。
それでも記録者は避けない。
全てを受け止める。
「終わりか?」
グラムが笑う。
記録者は焼けた腕を静かに見つめた。
「十分だ。」
小さく頷く。
「記録した。」
その瞬間。
焼け焦げた皮膚が、静かに元へ戻り始める。
治癒ではない。
まるで最初から傷など存在しなかったように、炎そのものが消えていく。
グラムの笑みが止まった。
「……何をした?」
記録者は一歩踏み出す。
「まだ始まったばかりだ。」
次の瞬間。
拳がグラムの腹へめり込む。
轟音。
焔帝の身体が夜空を一直線に吹き飛び、山脈を砕きながら地平線の彼方へ消えた。
夜空に静寂が訪れる。
記録者は吹き飛んだ先を見つめ、小さく本を開いた。
そこには、新しい一行だけが刻まれていた。
『六代目焔帝――記録開始。』




