4-1 開戦
第四章
七賢者編
第一話
地下神殿が揺れた。
英雄と賢者。
世界の頂点に立つ者達が、初めて同じ戦場へ集う。
最初に笑ったのはグラムだった。
「待たせたな。」
黄金の炎が噴き上がる。
その熱だけで石柱が砕け、神殿全体が赤く染まった。
対する七賢者は誰一人動かない。
記録者。
選定者。
監察者。
認識者。
調停者。
執行者。
そして最奥に座る始原。
まるで最初から勝敗を知っているかのように、静かだった。
ノアはその光景を見つめる。
ここにいる全員が、自分より遥かに強い。
だからこそ戦わない。
今、自分の役目は見届けることだった。
「始めよう。」
執行者の一言で空気が変わる。
その瞬間だった。
グラムが消える。
轟音。
炎が地下神殿を突き抜け、一直線に記録者へ襲い掛かる。
同時に、ガイアスが選定者へ拳を振り上げた。
アイリスは監察者へ。
セレスは認識者へ。
バルドは調停者へ。
五つの戦場が、一瞬で生まれる。
「ようやく殴れる。」
グラムは笑う。
対する記録者は静かに本を閉じた。
「六代目焔帝。」
「お前は記録する価値がある。」
「嬉しいこと言うじゃねぇか。」
炎が爆ぜる。
拳が激突する。
衝撃だけで雲が吹き飛び、夜空が赤く染まった。
その頃。
地下神殿ではガイアスの拳が大地を砕き、アイリスの氷が吹雪を生み、セレスは無数の魔法陣を展開する。
誰も助けには行けない。
ここから先は、一対一。
それぞれが信じる正義を懸けた戦いだった。
上空。
グラムは笑いながら拳を振るう。
一撃。
二撃。
三撃。
炎が記録者を包み込む。
大爆発。
夜空が白く染まった。
土煙が晴れる。
そこには、焼け焦げた記録者が静かに立っていた。
焼けた腕を見つめ、小さく頷く。
「十分だ。」
静かな声。
「記録した。」
その一言に。
グラムの笑みが止まる。
本能だけが叫んでいた。
――今、何かが始まった。




