3-14 宣戦布告
第三章
オラクル編
第十四話
オラクル本部。
地下神殿。
静寂。
七つの席。
七賢者は動かない。
ただ世界地図だけが光っていた。
アルメリア。
死者二十三万。
避難成功十七万。
数字だけが残る。
その時だった。
地下神殿の扉が開く。
轟音。
炎が流れ込む。
グラムだった。
その後ろ。
ガイアス。
アイリス。
バルド。
セレス。
そしてノア。
英雄達が並ぶ。
静寂。
執行者が言う。
「来たか」
グラムが笑う。
「来るだろ」
低い声。
「二十三万人殺されたんだからな」
執行者は否定しない。
ただ静かに受け止める。
「感情論だな」
「そうかもな」
グラムが一歩前へ出る。
炎が揺れる。
「だが俺は英雄だ」
静寂。
「感情で動く」
会議場が静まる。
グラムは執行者を見据える。
「終焉への介入禁止」
「取り消せ」
執行者は即答した。
「断る」
グラムが笑う。
怒りで。
「そう言うと思った」
執行者は続ける。
「次の終焉も来る」
静かな声。
「そしてその次も」
「だから何だ」
「お前達はまた失敗する」
静寂。
「また人を救えない」
グラムの笑みが消える。
執行者は続けた。
「それでも人を選ぶか」
静寂。
グラムは迷わない。
「当たり前だ」
即答だった。
「一人でも救う」
「十人でも救う」
「百人でも救う」
炎が吹き上がる。
「最後の一人までだ」
執行者は目を閉じる。
短く。
そして。
静かに言った。
「だから英雄は滅ぶ」
会議場が凍る。
ガイアスの拳が鳴る。
アイリスの周囲の空気が冷える。
セレスも剣へ手を伸ばす。
バルドの目も細くなる。
執行者は動かない。
ただ。
グラムを見ている。
「英雄は目の前を見る」
静かな声。
「賢者は世界を見る」
「だから我々は同じ場所に立てない」
グラムが笑う。
「違うな」
炎が揺れる。
「お前達は人を見捨てる」
執行者も見返す。
「お前達は世界を滅ぼす」
静寂。
長い沈黙。
そして。
グラムが言った。
「なら」
炎が吹き上がる。
地下神殿を赤く染める。
「力で止めてみろ」
静寂。
執行者は答えない。
代わりに。
一人の賢者が立ち上がった。
記録者。
続いて。
選定者。
監察者。
調停者。
認識者。
五人の賢者が席を離れる。
だが。
二つの席だけは動かない。
執行者。
そして。
最後の席。
静寂。
ガイアスが眉をひそめた。
「ん?」
視線を向ける。
「二人残ってるぞ」
誰も答えない。
だが。
ほんの僅かに。
空気が変わった。
記録者が目を閉じる。
選定者が小さく息を吐く。
監察者は視線を逸らす。
調停者も。
認識者も。
誰も最後の席を見ない。
まるで。
最初から触れてはいけない話題だったかのように。
ガイアスが笑う。
「何だよ」
「そんな気になる奴なのか?」
静寂。
その時。
執行者が初めて答えた。
「あの方は関係ない」
静かな声。
ガイアスが眉をひそめる。
「は?」
執行者は続ける。
「今回はな」
静寂。
誰も説明しない。
記録者も。
選定者も。
監察者も。
誰も。
ただ当然のように受け入れていた。
その反応の方が異常だった。
ノアだけが最後の席を見る。
境界が反応する。
視る。
だが。
見えない。
静寂。
線がない。
未来がない。
過去がない。
存在の輪郭すら見えない。
初めてだった。
境界で何も見えなかったのは。
ノアの背筋に冷たいものが走る。
「何だ……」
小さく呟く。
だが。
執行者は何も答えない。
ただ静かにノアを見ていた。
長い沈黙。
やがて。
グラムが笑った。
「なるほどな」
炎が揺れる。
「どうでもいい」
その一言で空気が変わる。
グラムが前へ出る。
「今日はお前らだ」
記録者が一歩前へ出る。
グラムを見る。
長く。
静かに。
選定者はガイアスを見る。
監察者はアイリスを見る。
調停者はバルドを見る。
認識者はセレスを見る。
まるで。
最初から相手が決まっていたかのように。
執行者だけが動かない。
ノアも動かない。
そして。
最後の席だけが沈黙している。
静寂。
次の瞬間。
地下神殿を揺るがす轟音。
グラムが消える。
記録者も消える。
同時に。
ガイアス。
アイリス。
バルド。
セレス。
そして賢者達も動いた。
英雄と七賢者が正面から激突する。
だが。
最後の席だけは。
最後まで動かなかった。




