3-13 英雄と賢者 再び
第三章
オラクル編
第十三話
共和国首都。
英雄会議室。
重い空気が流れていた。
誰も喋らない。
アルメリアから三日。
全員が帰還していた。
だが。
誰も勝ったとは思っていない。
グラムは窓の外を見ていた。
珍しく酒も飲まない。
セレスも黙っている。
アイリスは腕を組み。
ガイアスは椅子にもたれ。
バルドは資料を見ていた。
静寂。
最初に口を開いたのはバルドだった。
「死者は二十三万」
会議室が静まる。
誰も反応しない。
数字を聞いても。
もう驚かない。
「避難成功者は約十七万」
静かな声。
「英雄がいたからだ」
ガイアスが鼻を鳴らす。
「いなかったら全滅だったな」
だが。
その声にいつもの勢いはない。
バルドも頷く。
「その通りだ」
静寂。
「だが」
資料を閉じる。
「オラクルも正しい」
会議室が静まる。
セレスが顔を上げる。
アイリスも。
グラムだけは動かない。
バルドは続けた。
「我々は二十三万を救えなかった」
静かな声。
「そして終焉はまだ続いている」
誰も否定できない。
事実だった。
バルドは窓の外を見る。
「もし次が来るなら」
静寂。
「同じことになる」
その言葉が重かった。
会議室に沈む。
グラムが立ち上がる。
静寂。
全員が見る。
焔帝。
世界最強。
グラムは振り返らない。
窓の外を見たまま言った。
「だから何だ」
低い声。
静寂。
「救えなかったから」
拳を握る。
「次は救わないのか」
誰も答えない。
グラムが振り返る。
目は真っ直ぐだった。
揺らいでいない。
「一人しか救えなくても救う」
静かな声。
「十人でも」
「百人でも」
「変わらん」
ガイアスが笑った。
小さく。
久しぶりに。
「そういうと思ったぜ」
アイリスもため息を吐く。
「馬鹿ね」
だが。
否定はしない。
セレスも笑っていた。
バルドだけが目を閉じる。
「だから英雄なんだろうな」
静かな声。
その時だった。
扉が開く。
騎士が飛び込んでくる。
顔色が悪い。
息も荒い。
「報告!」
会議室が静まる。
騎士は叫ぶ。
「オラクルが動きました!」
全員が立ち上がる。
グラムの目が細くなる。
「何だと」
騎士は続ける。
「各国へ通達です!」
息を整える暇もない。
「終焉への介入禁止!」
静寂。
誰も喋らない。
意味を理解するのに数秒かかった。
セレスが口を開く。
「禁止……?」
騎士が頷く。
「終焉発生時の避難活動のみ許可」
「英雄による介入は禁止」
会議室の空気が凍る。
ガイアスが笑う。
怒りで。
「ははっ」
拳が鳴る。
「とうとう狂ったか」
アイリスの目も冷たくなる。
バルドも黙る。
だが。
グラムだけは笑っていた。
静かに。
そして。
立ち上がる。
「分かった」
全員が見る。
グラムは扉へ向かう。
「どこ行くんですか」
セレスが聞く。
グラムは振り返らない。
ただ一言。
「話し合いだ」
静寂。
ガイアスが吹き出した。
「嘘つけ」
グラムも笑う。
「だろうな」
炎が揺れる。
その目には。
明確な敵意が宿っていた。
英雄と賢者。
決裂は終わった。
次は。




