3-12 決裂
第三章
オラクル編
第十二話
夕暮れ。
アルメリアの空は赤かった。
沈む夕日ではない。
炎でもない。
終焉が残した傷跡だった。
都市の半分が消えている。
港も。
市場も。
住宅街も。
何万人もの人間がいた場所も。
何も残っていない。
静寂。
英雄達は誰も喋らなかった。
救えた命もある。
だが。
救えなかった命の方が多い。
それが現実だった。
グラムが立ち上がる。
執行者を見る。
「お前は最初から知っていたな」
低い声。
執行者は否定しない。
「知っていた」
即答だった。
ガイアスの拳が鳴る。
「知ってて黙ってたのか」
「そうだ」
静寂。
空気が凍る。
アイリスが睨む。
「何故」
執行者はアルメリアを見る。
崩壊した都市を。
消えた人々を。
静かな声で答えた。
「これより小さい犠牲で世界を守るためだ」
静寂。
グラムが笑う。
怒りで。
「世界」
低い声。
「またそれか」
執行者は動じない。
「英雄は目の前を見る」
「我々はその先を見る」
静寂。
「だから役割が違う」
ガイアスが地面を踏み砕く。
「ふざけるな」
轟音。
「何万人死んだと思ってる」
執行者は答える。
「何万人で済んだと思っている」
静寂。
誰も喋れない。
執行者は続ける。
「終焉は拡大している」
「アルメリアへ全戦力を投入すれば」
「次はもっと大きな被害が出る」
静かな声。
「だから見捨てるべきだった」
その瞬間。
グラムの炎が爆発した。
轟音。
大地が割れる。
「黙れ」
低い声。
「見捨てろだと?」
執行者を見る。
真っ直ぐに。
「それがお前達の答えか」
執行者も見返す。
逃げない。
一歩も。
「そうだ」
静寂。
「世界を守る」
それだけだった。
理由も。
言い訳もない。
執行者は本気だった。
だからこそ。
許せない。
セレスが前へ出る。
「人を守らない世界に意味はありますか」
執行者は答える。
「人がいなければ世界は意味を持たない」
静寂。
「だが」
長い沈黙。
「世界がなければ人も存在できない」
誰も反論できない。
正しいからだ。
だが。
納得はできない。
バルドが目を閉じる。
そして。
小さく息を吐いた。
「だから我々は相容れない」
静かな声。
執行者は頷く。
「そうだ」
英雄は人を選ぶ。
賢者は世界を選ぶ。
答えは出た。
もう議論では埋まらない。
グラムが背を向ける。
「帰るぞ」
低い声。
セレスも続く。
ガイアスも。
アイリスも。
バルドも。
執行者は止めない。
ただ。
最後に言った。
「次の終焉が来る」
静寂。
英雄達の足が止まる。
「そしてその次も」
静かな声。
「その時も同じ答えを出すのか」
グラムは振り返らない。
ただ。
一言だけ返した。
「当たり前だ」
執行者は目を閉じる。
短く。
そして。
小さく呟いた。
「だから英雄は滅ぶ」
静寂。
その言葉だけが残った。
英雄達は去る。
賢者達も去る。
アルメリアの廃墟だけを残して。
この日。
英雄と七賢者は完全に決裂した。
そして誰も知らない。
遠く離れた禁域。
誰も近づけない塔の最上部で。
何者かが。
静かに目を開いたことを。




