3-11 救えない都市
第三章
オラクル編
第十一話
アルメリアは崩壊していた。
悲鳴。
怒号。
泣き声。
街中を人々が走る。
騎士達が誘導する。
兵士達が叫ぶ。
船が港を離れる。
それでも。
足りない。
圧倒的に。
足りなかった。
四十万人。
三日あれば救えた。
一日あれば救えた。
だが。
終焉は待たなかった。
都市の一角が消える。
次の瞬間。
また別の区画が消える。
爆発ではない。
崩壊でもない。
ただ。
存在そのものが消える。
まるで最初からなかったように。
グラムは歯を食いしばる。
炎を上げながら住民を運ぶ。
何百人。
何千人。
救った。
だが。
その何倍も消えていく。
ガイアスも同じだった。
港湾区。
崩れ落ちる建物を支え。
船を守り。
住民を逃がす。
だが。
港そのものが消える。
守った意味がなくなる。
アイリスも。
巨大な氷壁で避難路を作る。
だが。
終焉は壁を壊さない。
壁ごと消す。
セレスも剣を振るう。
人々を救う。
最後まで。
だが。
救う速度より。
消える速度の方が速い。
バルドだけは黙っていた。
数字を見ている。
避難率。
人口。
進行速度。
残り時間。
そして。
答えが出た。
助からない。
どう計算しても。
全員は。
助からない。
静寂。
バルドは空を見上げる。
誰にも聞こえない声で呟く。
「そういうことか」
英雄は人を救う。
だが。
世界は救えない。
執行者の言葉。
初めて理解した。
その意味を。
⸻
時計塔前。
ノアは空間の歪みを見ていた。
見える。
境界には見える。
終焉は生き物じゃない。
魔物でもない。
敵ですらない。
世界の傷。
世界の欠損。
そんなものだった。
だから倒せない。
だから斬れない。
だから燃やせない。
静寂。
ノアの顔色が変わる。
「まずい」
次の瞬間。
アルメリア中央区が消えた。
轟音すらない。
ただ。
街が消える。
数万人。
一瞬。
グラムの炎が揺れる。
ガイアスの拳が止まる。
セレスも固まる。
誰も。
救えなかった。
⸻
夕暮れ。
アルメリアは半分を失っていた。
避難できた者もいる。
救えた命もある。
だが。
失った方が圧倒的に多い。
街は終わった。
英雄達は立ち尽くしていた。
グラムが空を見る。
何もない。
終焉は消えていた。
まるで最初から存在しなかったみたいに。
残ったのは。
結果だけ。
静寂。
その時。
背後から声がした。
「終わったか」
英雄達が振り返る。
執行者だった。
いつからいたのか。
誰も気付かなかった。
グラムの目が細くなる。
執行者を見る。
真っ直ぐに。
「満足か」
低い声。
執行者は答えない。
アルメリアを見る。
消えた都市を見る。
そして。
静かに言った。
「だから言った」
静寂。
グラムの拳が震える。
「黙れ」
「英雄は人を救う」
執行者は続ける。
「だが」
長い沈黙。
「世界は救えない」
グラムが炎を噴き上げる。
轟音。
地面が砕ける。
だが。
執行者は動かない。
ただ見ている。
グラムを。
そして言う。
「これでもまだ」
静かな声。
「人を選ぶか」
静寂。
グラムは答える。
迷わず。
一秒も迷わず。
「当たり前だ」
執行者は目を閉じる。
短く。
そして開く。
「そうか」
その声は。
どこか悲しかった。




