3-10 間に合わない都市
第三章
オラクル編
第十話
静寂。
誰も喋れなかった。
アルメリア。
世界地図の一角。
そこが消えた。
街の外縁部。
港湾区画。
人口数万人規模。
それが。
一瞬だった。
ガイアスの顔から笑みが消える。
アイリスも固まる。
セレスが息を呑む。
バルドの目が細くなる。
グラムだけが地図を睨んでいた。
執行者が言う。
「これが終焉だ」
静かな声。
「始まれば止まらない」
誰も反論できない。
目の前で起きた。
現実として。
グラムが口を開く。
「転移門は」
即座だった。
執行者を見る。
「どこだ」
執行者の目が僅かに動く。
ガイアスが笑う。
「はっ」
豪快な笑み。
「やっぱりそう来るか」
グラムは答えない。
アルメリアを見ている。
ただそれだけ。
執行者は静かに言う。
「間に合わない」
「試してから言え」
即答だった。
静寂。
執行者も黙る。
そして。
ゆっくり振り返る。
会議場の奥。
巨大な門。
今まで閉じられていた扉。
初めて。
その存在に全員が気付く。
高さ二十メートル。
黒い石。
無数の文字。
まるで。
ベルグでノアが見た塔の門に似ていた。
ノアの境界が反応する。
嫌な予感。
だが。
今は考えている暇がない。
執行者が言う。
「転移門だ」
静かな声。
「アルメリアまで繋がっている」
セレスが前へ出る。
「使わせてください」
執行者は答えない。
静寂。
七賢者も動かない。
グラムが笑う。
「使わせろ」
低い声。
「それとも本当に止めるか」
炎が揺れる。
ガイアスが拳を鳴らす。
アイリスの周囲に霜が広がる。
空気が張り詰める。
執行者は英雄達を見る。
一人ずつ。
長く。
そして。
静かに言った。
「行け」
会議場が静まる。
ガイアスが眉を上げる。
アイリスも。
セレスも。
予想外だった。
グラムだけは笑う。
「最初からそうしろ」
執行者は答えない。
代わりに言った。
「これが最後だ」
静かな声。
「何がだ」
グラムが聞く。
執行者は世界地図を見る。
赤く染まるアルメリア。
そして。
小さく呟く。
「英雄の時代が終わる最後の機会だ」
静寂。
グラムの笑みが消える。
だが。
それ以上は聞かなかった。
今は時間がない。
グラムが門へ向かう。
セレスも続く。
ガイアス。
アイリス。
バルド。
五人の英雄。
そして。
最後にノア。
転移門の前へ立つ。
その時だった。
七賢者の一人が初めて口を開く。
低い声。
男か女かも分からない。
「境界」
静寂。
ノアだけが反応する。
振り返る。
七賢者は動かない。
ただ。
一人だけがノアを見ている。
「お前はどちらを選ぶ」
静かな声。
「英雄か」
間。
「世界か」
ノアは答えない。
答えられない。
分からないから。
七賢者は小さく頷く。
「そうか」
それだけだった。
次の瞬間。
転移門が光る。
轟音。
白い光が会議場を包む。
アルメリア。
終焉の都市。
英雄達は戦場へ向かう。
そして。
誰も知らない。
この戦いが。
英雄と賢者。
両方の運命を変えることになると。




