3-7 決裂
第三章
オラクル編
第七話
静寂。
執行者の声は誰にも届かなかった。
いや。
届いていた。
だが。
誰も止まらなかった。
グラムは出口へ向かう。
セレスも続く。
ガイアス。
アイリス。
バルド。
全員が同じ方向へ歩き出す。
アルメリアへ。
終焉へ。
執行者が再び口を開く。
「行けば死ぬ」
静かな声。
誰も振り返らない。
「歴代英雄もそうだった」
それでも。
足は止まらない。
グラムが言う。
「知るか」
低い声。
「俺は歴代じゃない」
執行者の目が細くなる。
「同じだ」
「違う」
即答だった。
会議場が静まる。
グラムは振り返る。
執行者を見る。
真っ直ぐに。
「俺は見た」
静かな声。
ベルグ。
消えた都市。
叫ぶ人々。
泣く子供。
崩れる世界。
「だから行く」
静寂。
「見たからだ」
会議場が沈黙する。
執行者も黙る。
グラムは続けた。
「お前達は見過ぎたんだ」
静寂。
ガイアスが目を見開く。
アイリスも。
バルドも。
セレスも。
執行者だけが動かない。
グラムの声だけが響く。
「何百年か知らん」
「何千年か知らん」
低い声。
「だが」
執行者を見る。
「お前達は人を数字で見るようになった」
静寂。
「十万人」
「百万人」
「世界」
グラムは笑う。
冷たい笑みだった。
「俺には分からん」
静寂。
「目の前の一人しか見えん」
その言葉に。
ガイアスが笑った。
「ははっ!」
豪快な笑い声。
「やっぱり馬鹿だなお前!」
グラムも笑う。
「知ってる」
アイリスがため息を吐く。
「救いようがないわね」
だが。
立ち上がる。
「付き合うわ」
バルドも続く。
「私もだ」
セレスは当然のように頷いた。
執行者だけが残る。
世界地図の前に。
静寂。
そして。
言った。
「行かせられない」
会議場の空気が変わる。
グラムの笑みが消える。
ガイアスも。
アイリスも。
バルドも。
執行者を見る。
静かな声だった。
だが。
今までで一番重かった。
「お前達は英雄だ」
静寂。
「だから行かせられない」
グラムが眉をひそめる。
「意味が分からんな」
執行者は答える。
「終焉に必要なのは英雄ではない」
静寂。
「世界だ」
会議場が凍る。
ガイアスの拳が鳴る。
アイリスの周囲の空気が凍り始める。
セレスも息を呑む。
執行者はゆっくり振り返る。
自らの席へ。
七つ並ぶ席。
その一つへ座る。
静寂。
そして。
その瞬間だった。
執行者の隣。
誰もいなかった席に。
人影が座っていた。
誰も現れる瞬間を見ていない。
ただ。
気付けばいた。
ガイアスの笑みが消える。
アイリスの目が細くなる。
バルドが初めて表情を変える。
さらに。
もう一つ。
席が埋まる。
また一つ。
また一つ。
静寂。
誰も喋れない。
気付けば。
七つの席は全て埋まっていた。
執行者を含めて。
七人。
会議場にいる英雄達ですら。
本能が警鐘を鳴らしていた。
強い。
そんな言葉では足りない。
違う。
古い。
圧倒的に。
執行者が口を開く。
「紹介しよう」
静寂。
「我々がオラクルだ」
七つの席。
七つの人影。
顔は見えない。
名前も分からない。
だが。
そこにいるだけで理解できた。
人類史の裏側にいた存在。
執行者は続ける。
「人は我々を」
静寂。
「七賢者と呼ぶ」
グラムが一歩前へ出る。
笑う。
久しぶりに。
本気で。
「なるほど」
低い声。
執行者を見る。
七賢者を見る。
そして。
拳を握る。
「ようやく分かった」
静寂。
「最初から止める気だったんだな」
執行者は否定しない。
長い沈黙。
それが答えだった。




