3-6 変わらない者達
第三章
オラクル編
第六話
静寂。
執行者の言葉が消える。
⸻
やはり。
変わらないか。
⸻
会議場の空気が重くなる。
ガイアスが鼻を鳴らした。
「何がおかしい」
低い声。
執行者を見る。
「人を守るための英雄だ」
「人を守ると答えて何が悪い」
執行者は答えない。
静かに世界地図を見ている。
その姿が。
グラムには気に入らなかった。
「おい」
低い声。
「質問に答えろ」
執行者が振り返る。
静寂。
「何故英雄を集めた」
会議場が静まる。
全員が聞きたかった。
ガイアスも。
アイリスも。
バルドも。
セレスも。
ノアも。
執行者はしばらく黙る。
やがて。
口を開いた。
「確認するためだ」
静かな声。
「何を」
グラムが聞く。
執行者は答える。
「英雄がまだ英雄なのかを」
静寂。
意味が分からない。
ガイアスが眉をひそめる。
「は?」
執行者は続ける。
「終焉は初めてではない」
会議場が静まる。
「過去にもあった」
「何度も」
静かな声。
「その度に英雄は繰り返した」
グラムの目が細くなる。
「初代焔帝」
静寂。
「二代目」
「三代目」
「四代目」
「五代目」
会議場が静まる。
執行者はグラムを見る。
「全員が同じことを言った」
静かな声。
「人を守る」
静寂。
「一人でも救う」
「最後まで諦めない」
誰も喋らない。
グラムだけが執行者を見ていた。
執行者は続ける。
「そして」
長い沈黙。
「全員死んだ」
会議場が凍る。
セレスの表情が変わる。
ガイアスの笑みも消える。
アイリスも黙る。
執行者は言う。
「誰も終焉を止められなかった」
静かな声。
「誰も塔へ辿り着けなかった」
静寂。
「誰も世界を救えなかった」
その言葉は重かった。
歴史そのものの重さ。
グラムは笑う。
小さく。
だが確かに。
「だから何だ」
静寂。
執行者を見る。
真っ直ぐに。
「俺は俺だ」
会議場が静まる。
「初代じゃない」
「五代目でもない」
低い声。
「焔帝グラムだ」
ガイアスが笑う。
「違いねぇ」
アイリスも小さく笑う。
バルドも目を閉じる。
セレスは安心したように息を吐いた。
だが。
執行者は笑わない。
ただ。
静かに言った。
「同じだ」
会議場が凍る。
グラムの目が細くなる。
「何だと」
「お前も同じだ」
静かな声。
「初代と」
「二代目と」
「三代目と」
「全員と」
静寂。
「だから終焉を止められない」
その瞬間。
会議場の空気が変わる。
完全に。
グラムの笑みが消える。
ガイアスも。
アイリスも。
バルドも。
執行者を見る。
執行者は続ける。
「英雄は変わらない」
静かな声。
「だから美しい」
誰も喋らない。
「だから尊い」
静寂。
「そして」
長い沈黙。
「だから滅ぶ」
会議場が凍り付く。
セレスが立ち上がる。
「それは違います」
初めてだった。
セレスが執行者へ反論した。
「何が違う」
「英雄は希望です」
即答だった。
執行者はセレスを見る。
長く。
静かに。
そして。
言った。
「希望は世界を救わない」
静寂。
その言葉。
その一言が。
決定的だった。
英雄達と。
オラクルの。
埋められない溝が。
初めて形になった。
その時だった。
世界地図が光る。
強く。
今までとは比較にならないほど。
全員が振り返る。
アルメリア。
第三の終焉。
赤い光が急激に広がっている。
執行者の表情が変わる。
「早い」
小さな声。
初めてだった。
執行者が動揺したのは。
グラムが笑う。
「決まりだな」
静寂。
焔帝が立ち上がる。
「行くぞ」
セレスも立つ。
ガイアスも。
アイリスも。
バルドも。
誰一人迷わない。
執行者だけが言った。
「待て」
静かな声。
だが。
その声は誰にも届かなかった。




