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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第1章 英雄狩り編

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1-6 初戦

第一章


英雄狩り編


第六話


先に動いたのはグラムだった。


地面が爆ぜる。


踏み込みだけで土が吹き飛んだ。


一瞬。


本当に一瞬だった。


グラムの剣がノアの頭上へ落ちる。


轟音。


森が揺れた。


木々が砕ける。


大地が裂ける。


リゼは反射的に顔を庇った。


爆風だけで身体が浮く。


意味が分からない。


人間同士の戦いじゃない。


災害だ。


完全に。


煙が舞う。


土煙の中。


グラムは眉を上げた。


「避けたか」


ノアはいた。


数メートル横。


無傷。


グラムは笑う。


「いいな」


本当に楽しそうだった。


そして。


再び消える。


速い。


今度はクロードにも見えない。


剣。


蹴り。


肘。


拳。


全てが必殺。


全てが戦場を終わらせるための一撃。


ノアは避ける。


避け続ける。


最小限で。


紙一重で。


グラムの顔から笑みが消え始めた。


「おかしいな」


ノアは答えない。


「俺の攻撃が当たらん」


ノアは答えない。


「英雄候補もこうだったのか」


ノアは答えない。


グラムはさらに速くなる。


森が消える。


周囲の木々が次々吹き飛ぶ。


剣が振られる度に地形が変わる。


クロードですら介入できない。


いや。


できても死ぬ。


それが分かる。


リゼは初めて恐怖した。


ノアが死ぬかもしれない。


ではない。


こんな化物が戦場にいる世界そのものに。


グラムが剣を振る。


ノアが避ける。


また振る。


避ける。


また。


避ける。


また。


避ける。


そして。


グラムが止まった。


「なるほど」


静かな声。


ノアも止まる。


グラムは笑った。


「そういうことか」


剣を肩へ担ぐ。


「英雄候補の力が効かなかった理由も分かった」


リゼが顔を上げる。


グラムはノアを見る。


まっすぐ。


興味深そうに。


「お前」


「英雄が嫌いなんじゃないな」


ノアは黙る。


「違うか」


グラムは笑う。


「お前は英雄を知りたいんだ」


静寂。


クロードが少しだけ目を細めた。


グラムは続ける。


「だから俺を殺さない」


リゼが息を呑む。


確かに。


ノアは一度も攻撃していない。


避けるだけ。


観察するだけ。


分析するだけ。


戦っていない。


「違うか」


グラムが聞く。


ノアは初めて答えた。


「半分正解だ」


「残り半分は」


「お前が強いからだ」


数秒。


沈黙。


そして。


グラムは大笑いした。


「正直だな!」


豪快だった。


戦場で笑う男。


ノアを見る目が変わる。


英雄候補を殺した人間。


ではない。


ようやく。


一人の敵として見た。


「いい」


グラムは剣を構える。


「なら見せてやる」


空気が変わる。


クロードが顔をしかめる。


リゼの背筋が凍る。


さっきまでとは違う。


本気だ。


今まで遊んでいた。


その事実にリゼは戦慄した。


グラムが言う。


「俺が何故最強なのか」


次の瞬間。


世界が赤く染まった。


炎ではない。


熱でもない。


だが。


空気そのものが変わる。


圧力。


存在感。


威圧。


兵士達が英雄を恐れる理由。


国家が英雄に頼る理由。


世界最強と呼ばれる理由。


その全てがそこにあった。


クロードの膝が僅かに沈む。


リゼは息が苦しい。


立っているだけで精一杯だった。


そして。


グラムは笑う。


「来い」


その言葉に。


ノアも初めて短剣を構え直した。


そして。


ほんの僅かに。


口元が上がる。


グラムも気付いた。


「ああ」


笑う。


「お前も戦う気になったか」


ノアは答えない。


だが。


今までとは違う。


観察ではない。


分析でもない。


戦闘だ。


初めて。


英雄狩りが。


世界最強の英雄へ牙を剥こうとしていた。

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