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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第1章 英雄狩り編

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1-5 本物の英雄

第一章


英雄狩り編


第五話


静かだった。


森の中。


焚き火だけが揺れている。


誰も動かない。


リゼは初めて理解した。


英雄とは何かを。


遠くにいるだけで分かる。


空気が違う。


生物として格が違う。


目の前の男は人間ではない。


災害だ。


グラムはゆっくり歩いてくる。


止まらない。


焦らない。


まるで散歩でもしているようだった。


巨大な剣を肩に担ぎ。


楽しそうに笑っている。


「お前がノアか」


ノアは答える。


「そうだ」


「グラムだ」


「知っている」


「だろうな」


グラムは笑った。


リゼは意味が分からない。


普通なら。


もっと警戒する。


もっと殺気立つ。


だが。


二人は違った。


まるで。


昔から知っている相手と話しているようだった。


グラムが立ち止まる。


十メートル。


近い。


近過ぎる。


クロードが前へ出た。


巨大な盾を構える。


グラムを見る。


そして。


笑った。


「初めて見たな」


「何がだ」


「本物の英雄」


グラムも笑う。


「初めて見たな」


「何がだ」


「俺の前に立つ人間」


クロードは吹き出した。


「面白い」


リゼだけが胃を痛めていた。


全員おかしい。


本当に。


全員おかしい。


グラムの視線がノアへ戻る。


「聞きたいことがある」


「何だ」


「英雄候補を殺したらしいな」


「殺した」


即答。


グラムは楽しそうだった。


「どうだった」


ノアは少し考える。


「弱かった」


静寂。


リゼは終わったと思った。


帝国軍が聞いたら戦争になる。


いや。


今も戦争だった。


だが。


グラムは怒らない。


むしろ。


笑った。


心底楽しそうに。


「そうか」


そして。


剣を地面へ突き立てる。


轟音。


地面が沈む。


リゼの顔が引きつる。


何だそれは。


百キロ以上ありそう


それを

なぜ木の棒のように片手で軽々と持てるのか。


「じゃあ」


グラムが言った。


「俺はどうだ」


ノアは答える。


「強いな」


「どのくらいだ」


「英雄候補とは比べ物にならん」


グラムは満足そうだった。


その反応が嬉しかった。


強者が。


強者を認める。


それだけで十分だった。


「なら」


グラムが一歩前へ出る。


「試してみるか」


空気が変わる。


クロードの笑みが消える。


リゼが後退る。


本能だった。


逃げろ。


危険だ。


そう叫んでいる。


だが。


ノアは動かない。


「いいぞ」


グラムが笑った。


次の瞬間。


消えた。


リゼには見えなかった。


クロードにも。


恐らく。


普通の兵士なら何も見えない。


轟音。


ノアがいた場所が吹き飛ぶ。


土が舞う。


木々が折れる。


地面が抉れる。


一撃。


ただの踏み込み。


それだけ。


リゼの顔から血の気が引いた。


あり得ない。


こんなもの。


戦争じゃない。


災害だ。


グラムが振り返る。


そして。


笑う。


「避けたか」


ノアは十メートル後ろにいた。


無傷。


だが。


目が変わっている。


初めてだった。


ノアが警戒したのは。


グラムが剣を担ぐ。


「いいな」


本当に楽しそうだった。


「久しぶりだ」


ノアは短剣を握る。


そして。


静かに言った。


「お前」


「何だ」


「戦争向いてないな」


リゼが頭を抱えた。


今言うのか。


今。


その言葉を。


グラムは一瞬だけ固まる。


そして。


大笑いした。


森中に響くほど。


「ははははははは!!」


腹を抱えて笑う。


クロードも笑っている。


何が面白いのか分からない。


リゼだけが分からない。


グラムは笑いながら言った。


「初対面でそれを言った奴は初めてだ」


ノアは真顔だった。


「事実だ」


グラムの目が細くなる。


「理由は」


ノアは答える。


「お前がいるから帝国は弱い」


静寂。


焚き火が揺れる。


クロードが笑うのをやめた。


グラムも笑みを消した。


初めてだった。


本当に初めて。


ノアへ敵意を向けたのは。


「続けろ」


低い声。


ノアは構わず言った。


「帝国軍はお前に頼り過ぎている」


「お前が勝つ」


「お前が壊す」


「お前が守る」


「だから考えなくなる」


グラムは黙って聞いている。


「英雄がいる限り」


ノアは言った。


「帝国は勝てない」


沈黙。


森が静まり返る。


そして。


グラムは剣を抜いた。


巨大な刃が月光を反射する。


「面白い」


殺気。


今度は本物だった。


「その理屈ごと叩き潰してやる」


ノアも短剣を構える。


焔帝グラム。


世界最強。


そして。


英雄狩りノア。


二人の初戦が。


始まろうとしていた。

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