1-4 もう勝っている
第一章
英雄狩り編
第四話
帝国軍本陣。
グラムは食事中だった。
巨大な肉を片手で持ち上げながら、副官の報告を聞いている。
「補給倉庫が炎上しました」
グラムが顔を上げる。
「どこだ」
「第三補給拠点です」
「被害は」
「全焼」
「守備隊は」
「二百名全滅」
グラムは肉をかじる。
少し考える。
そして。
「そうか」
補給拠点一つ。
戦争では珍しくない。
副官もそう思った。
だが。
翌日。
第二補給拠点が燃えた。
その夜。
輸送港が爆発した。
さらに翌日。
食糧倉庫が消えた。
帝国軍本陣。
副官の顔から血の気が失せていた。
「おかしい」
地図の上。
補給拠点に赤印が増えていく。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
まるで最初から場所を知っていたかのように。
正確だった。
グラムは黙って見ていた。
そして。
笑った。
「やられたな」
副官は笑えない。
帝国軍は勝っている。
戦場では。
だが。
補給が死んでいる。
このままでは前線が維持できない。
「犯人は」
副官は報告書を差し出した。
そこには一行。
ノア
とだけ書かれていた。
グラムは数秒見つめる。
そして。
「親衛隊を出せ」
副官が目を見開く。
「親衛隊を?」
「ああ」
「たかが工作部隊にですか」
グラムは笑った。
楽しそうに。
本当に楽しそうに。
「違う」
「英雄候補を殺した男だ」
副官が黙る。
グラムは地図を見る。
「兵士では足りん」
その一言で。
副官は理解した。
グラムは本気だ。
「生け捕りですか」
「好きにしろ」
グラムは立ち上がる。
「ただし」
笑う。
「殺されるなよ」
⸻
同じ頃。
帝国領内。
山岳地帯。
夜。
焚き火が揺れていた。
クロードが肉を焼いている。
リゼが地図を見ている。
ノアは木にもたれて空を見上げていた。
静かな夜だった。
「次は?」
リゼが聞く。
「第一補給路」
「また燃やすんですか」
「燃やす」
「飽きません?」
「飽きない」
クロードが笑う。
「帝国兵が可哀想だな」
「そうか?」
「飯がなくなる」
「戦争だからな」
クロードは肩を竦める。
リゼは地図を畳く。
そして。
ふと顔を上げた。
「でも」
「何だ」
「グラムはどうするんです?」
焚き火が揺れる。
ノアは少し黙った。
そして。
「来る」
とだけ言った。
リゼがため息を吐く。
「根拠は」
「俺なら来る」
即答だった。
クロードが吹き出す。
「それ根拠か?」
「十分だ」
ノアは空を見る。
焔帝グラム。
世界最強。
英雄の頂点。
だからこそ。
必ず来る。
自分を止めるために。
その時だった。
クロードの笑みが消えた。
ゆっくり立ち上がる。
巨大な盾を手に取る。
リゼが眉をひそめる。
「どうしたんです?」
クロードは森の奥を見ていた。
暗闇。
木々の向こう。
何かがいる。
そして。
低く呟く。
「もう来てるぞ」
静寂。
焚き火が揺れる。
ノアが立ち上がる。
森の奥。
暗闇の中から一人の男が歩いてきた。
赤い髪。
巨大な剣。
圧倒的な存在感。
誰もが知る英雄。
焔帝グラム。
世界最強。
グラムは二人を見て。
そして最後にノアを見た。
楽しそうに笑う。
「見つけたぞ」
その一言で。
空気が変わった。




