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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第1章 英雄狩り編

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1-3 焔帝

第一章


英雄狩り編


第三話


ヴァルディア帝国。


帝都ヴァルハイム。


英雄専用区画。


その中央にある訓練場は、普通の人間が立ち入ることを許されていない。


理由は単純だった。


死ぬからだ。


広さは数キロ。


地面には無数の剣傷。


岩山は砕け。


湖は蒸発している。


そこに一人の男が立っていた。


グラム。


焔帝。


世界最強の英雄。


彼は木剣を肩に担いだまま欠伸をする。


向かいには十人。


帝国最精鋭の近衛騎士達。


全員が英雄直属。


国家最高戦力。


だが。


誰一人笑っていなかった。


「始めろ」


グラムが言う。


その瞬間。


十人全員が飛び出した。


速い。


普通の兵士なら視認もできない。


だが。


グラムは動かない。


木剣を振る。


一人吹き飛ぶ。


二人目。


三人目。


四人目。


五人目。


僅か数秒。


十人全員が地面に転がっていた。


静寂。


グラムは木剣を放り投げる。


「弱いな」


騎士達は苦笑するしかない。


弱くない。


むしろ強い。


だが。


相手が悪い。


グラムは英雄だ。


世界最強の。


「鍛え直せ」


「はっ」


騎士達が退場する。


その時だった。


副官が現れる。


「共和国から追加報告です」


グラムは興味なさそうに受け取る。


「ノアか」


「はい」


「どうだった」


副官が少し言いにくそうな顔をした。


「英雄候補の死体を解剖した結果です」


「ほう」


「外傷は首の切断のみ」


「普通だな」


「ですが」


副官は資料をめくる。


「戦闘痕がありません」


グラムが止まる。


「何?」


「英雄候補の拳骨は全て無傷」


「肉体損傷なし」


「つまり」


副官が息を吐く。


「ほぼ一方的だった可能性があります」


沈黙。


グラムは資料を閉じた。


そして。


笑った。


「面白いな」


副官は少し安心する。


この男が本気で興味を持つことは珍しい。


「会いますか」


「会う」


即答だった。


「いつだ」


「近いうちに」


グラムは窓の外を見る。


帝国。


巨大な領土。


無数の兵士。


全てを背負う英雄。


だが。


今だけは。


戦争よりも興味があった。


ノア。


その名前に。


その頃。


共和国。


会議室。


軍上層部が集まっていた。


空気は最悪だった。


「無理だ」


将軍が吐き捨てる。


「グラムが出ている」


別の将軍も頷く。


「東部戦線は終わりだ」


「撤退しかない」


共和国軍は劣勢だった。


兵力差。


物資差。


そして。


英雄差。


グラム一人で戦況がひっくり返る。


それが現実だった。


だから。


誰も希望を持っていない。


一人を除いて。


「勝てる」


静かな声。


全員が振り向く。


ノアだった。


将軍達が眉をひそめる。


「何だと」


「勝てる」


もう一度言う。


「どうやって」


ノアは地図を見る。


帝国軍の進路。


補給線。


輸送拠点。


倉庫。


港。


全部見ていた。


そして。


「もう勝っている」


会議室が静まり返る。


誰も意味が分からない。


将軍が怒鳴る。


「相手はグラムだぞ!」


「知っている」


「世界最強だ!」


「知っている」


「なら何故だ!」


ノアは地図を指差した。


帝国軍補給路。


一本。


赤線が引かれている。


「ここを潰す」


将軍達が顔をしかめる。


「たったそれだけで?」


ノアは頷く。


「グラムは強い」


「だが軍隊は強くない」


誰も理解できない。


だが。


リゼだけは気付いていた。


ノアが笑っている。


英雄候補を殺した時と同じ顔。


何かを見つけた顔。


「準備しろ」


ノアが立ち上がる。


「どこへ行く」


将軍が聞く。


ノアは振り返らない。


「帝国を負けさせに行く」


誰も言葉を返せなかった。


世界最強の英雄。


焔帝グラム。


その男を前にして。


戦う前から勝利を宣言する人間など。


この部屋には一人しかいなかった。


そして。


その狂気は。


まだ始まったばかりだった。

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