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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第1章 英雄狩り編

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1-2 聖女

第一章


英雄狩り編


第二話


英雄候補が死んだ。


その報せは、一日で世界中へ広がった。


誰も信じなかった。


信じられるはずがなかった。


英雄候補とはいえ英雄である。


人が殺せる存在ではない。


それが世界の常識だった。


だから最初は噂だと思われた。


誤報だと思われた。


だが。


報告は二重三重に届いた。


生存兵士の証言も一致した。


英雄候補は死んだ。


人に殺された。


そして、その男の名はノア。


世界は静かに揺れ始めていた。


神聖国ルミナス。


巨大な白亜の神殿。


高い天井。


無数のステンドグラス。


差し込む光の中を、一人の少女が歩いていた。


白銀の髪。


蒼い瞳。


純白の法衣。


誰も顔を上げない。


神官達は道の両脇で跪いている。


それが当然だった。


少女は歩く。


静かに。


ただ歩くだけ。


それなのに空気が重い。


息苦しい。


神官達は額に汗を浮かべていた。


少女の名はセレス。


神聖国の英雄。


《聖女》。


世界五英雄の一人。


神官長が跪いたまま報告書を差し出す。


「共和国より急報です」


セレスは受け取った。


静かに目を通す。


一枚。


二枚。


三枚。


そして。


足が止まった。


神官達が息を呑む。


セレスが立ち止まることは珍しい。


「確認は」


「三重です」


「証言は」


「全て一致しております」


セレスは再び報告書へ目を落とした。


そこには短く書かれていた。


英雄候補死亡。


討伐者 ノア。


セレスはその名前を見つめる。


英雄候補。


未完成とはいえ英雄。


普通の人間では近付くことすらできない。


それを殺した。


一人で。


「能力は」


「不明です」


神官長が答える。


「生存者の証言によれば、英雄候補の力が通用しなかったと」


沈黙。


神官達は顔を見合わせる。


そんなことはあり得ない。


英雄の力は絶対だ。


少なくとも彼らはそう教えられてきた。


だが。


セレスは否定しなかった。


むしろ。


ほんの僅かに興味を示した。


「共和国へ向かいます」


神官長が顔を上げる。


「聖女様?」


「確認したいことがあります」


それだけ言うと、セレスは歩き出した。


その背中を見送りながら、神官達は理解していた。


世界が少しだけ変わったことを。


同じ頃。


ヴァルディア帝国最前線。


三ヶ月続いた攻城戦は終わろうとしていた。


敵国最大の要塞。


高さ五十メートルを超える城壁。


数万の兵士。


幾度も帝国軍を退けてきた難攻不落の砦。


その正面。


一人の男が立っていた。


赤い髪。


巨大な剣。


赤黒い外套。


男は退屈そうに肩を回した。


「もういいか?」


周囲の兵士達が慌てる。


「グラム様!」


「まだ距離が!」


「危険です!」


男は欠伸をした。


そして剣を振るう。


次の瞬間。


城壁が崩れた。


轟音。


爆風。


悲鳴。


巨大な城壁が中央から吹き飛ぶ。


敵兵達は何が起きたのか理解できない。


帝国軍も同じだった。


見慣れていても理解できない。


人間業ではない。


男は剣を肩へ担ぐ。


「終わりか」


《焔帝グラム》。


世界最強。


そう呼ばれる英雄。


城門が崩壊し、敵軍は総崩れになった。


歓声が上がる。


帝国兵達は英雄の名を叫ぶ。


グラムは興味なさそうに歩き出した。


その時。


副官が駆け寄る。


「報告があります」


「なんだ」


「共和国で英雄候補が殺されました」


グラムの反応は薄かった。


「そうか」


英雄候補。


珍しくもない。


たまに現れ。


たまに消える。


それだけだ。


副官は続ける。


「討伐者は一人です」


グラムの足が止まる。


「一人?」


「はい」


資料を受け取る。


名前を見る。


ノア。


数秒。


沈黙。


そして。


グラムは笑った。


久しぶりだった。


心から面白いと思ったのは。


「そうか」


副官が首を傾げる。


「グラム様?」


グラムは遠く共和国の方角を見る。


「面白い」


それだけ言った。


一方その頃。


共和国首都アステリア。


政府庁舎の一室。


ノアは窓際に立っていた。


机の上には大量の書類。


地図。


兵力配置。


補給路。


帝国軍の動向。


その全てが並んでいる。


部屋の扉が開いた。


一人の女性が入ってくる。


黒髪。


眼鏡。


冷静そうな顔。


リゼだった。


「報告です」


「なんだ」


「神聖国が動きました」


ノアは振り返らない。


「そうか」


「帝国も動いています」


「そうか」


リゼはため息を吐く。


「英雄候補を一人殺しただけで大騒ぎだな」


「当然です」


「英雄は自分達が特別だと思っている」


「違うんですか」


ノアは少し考えた。


そして。


「強いのは事実だ」


そう答えた。


リゼは笑う。


「珍しく褒めましたね」


「事実だからな」


ノアは窓の外を見る。


共和国の空。


遠く。


見えない場所にいる二人の英雄を思う。


聖女セレス。


焔帝グラム。


世界を支える怪物達。


そして。


次の標的。


ノアは静かに呟いた。


「ようやく来たか。次は本物だ」


その言葉に。


リゼは少しだけ背筋が寒くなった。


ノアは気付いていない。


あるいは気付いていて気にしていない。


英雄たちと、その怪物を狩ろうとしている男。


どちらが異常なのか。


リゼには分からなかった。


ただ一つ。


確かなことがある。


世界最強の英雄達と。


英雄狩り。


その衝突は、もう始まっている。

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