3-2 地下への招待
第三章
オラクル編
第二話
中央塔の内部は静かだった。
外の喧騒が嘘みたいに。
市場の声も。
商人達の呼び込みも。
ここまでは届かない。
巨大な円形広間。
白い石造り。
磨き上げられた床。
そして中央。
円環の紋章。
七つの星が刻まれていた。
案内人は迷いなく歩く。
誰もいない。
警備兵も。
使用人も。
役人も。
何もいない。
グラムが眉をひそめた。
「人がいないな」
「はい」
案内人は答える。
「必要ありませんので」
意味が分からない。
セレスも違和感を覚えていた。
世界最大の都市。
その中枢。
なのに人の気配がない。
案内人は広間の奥へ進む。
やがて。
黒い扉の前で止まった。
装飾はない。
紋章もない。
ただそこにあるだけ。
だが。
妙な存在感があった。
ノアの境界が反応する。
強く。
静かに。
扉が開く。
その先には。
地下へ続く階段があった。
「地下か」
グラムが呟く。
「はい」
案内人は頷く。
「こちらです」
階段を降りる。
静寂。
足音だけが響く。
白い石の壁。
黒い石の壁。
見たこともない金属。
階段を下る度に。
時代を遡るみたいに景色が変わる。
アベルが壁へ触れた。
そして。
僅かに眉をひそめる。
「古いな」
静かな声。
「アーカディアより古い」
案内人は否定しない。
グラムが笑う。
「世界最古の都市より古い建物か」
「はい」
即答だった。
「正確には」
少しだけ間を置く。
「アーカディアは後から作られました」
静寂。
誰も喋らない。
意味が分からない。
アーカディアの下に。
アーカディアより古い建造物がある。
そんな話。
聞いたこともない。
やがて。
階段は終わった。
その先。
巨大な空間が広がる。
全員が足を止めた。
地下神殿。
そんな言葉が近かった。
広大な空間。
無数の柱。
遥か頭上の天井。
そして中央。
巨大な世界地図。
それだけだった。
都市もない。
書庫もない。
研究施設もない。
人もいない。
ただ。
世界地図だけが存在していた。
地図は宙に浮いている。
青白く光りながら。
まるで生きているみたいに。
その時だった。
地図の一部が光る。
ベルグ。
ノアの目が細くなる。
続いて。
リュシア。
さらに。
見たこともない場所が幾つか。
誰も触れていない。
誰も操作していない。
なのに。
情報だけが増えていく。
グラムが聞く。
「誰が動かしてる」
案内人は答えた。
「誰も」
「は?」
「世界が映しているだけです」
静かな声。
意味が分からない。
だが。
案内人は本気だった。
冗談を言っている顔ではない。
ノアは地図を見る。
境界が反応する。
この地図。
ただの地図じゃない。
世界そのものと繋がっている。
そんな感覚。
セレスが呟く。
「神話みたいですね」
案内人は首を振る。
「違います」
静かな声。
「神話の方が後です」
静寂。
また意味が分からない。
案内人は歩き出す。
世界地図の横を通り過ぎる。
その先。
広い空間の奥。
七つの席が並んでいた。
それだけ。
机もない。
装飾もない。
ただ。
七つの席。
まるで最初からそこに存在していたみたいに。
グラムが周囲を見回す。
「他はいないのか」
案内人が振り返る。
「何がですか」
「この場所を管理してる連中だ」
静寂。
案内人は少しだけ笑った。
「まもなく分かります」
意味深な言葉だった。
グラムが鼻を鳴らす。
「気に入らんな」
「よく言われます」
案内人は平然と答えた。
その時だった。
空気が変わる。
誰かいる。
今までいなかったはずなのに。
七つの席の一つ。
そこに人影が座っていた。
誰も現れる瞬間を見ていない。
ただ。
気付いたらいた。
ノアの境界が反応する。
観測者と出会った時に近い。
だが違う。
もっと静かで。
もっと深い。
静寂。
グラムの表情から笑みが消える。
「お前か」
低い声。
セレスも目を細める。
アベルも黙る。
人影は静かに頷いた。
「久しいな」
静かな声。
「焔帝グラム」
出会った男。
英雄の死を決める者。
人影はゆっくり立ち上がる。
黒い外套。
顔は見えない。
だが。
その存在だけで空間が重くなる。
「会議の前に」
静かな声。
「他の英雄達と合流してもらう」
グラムが眉をひそめる。
「英雄達?」
人影は頷く。
「全員集まっている」
静寂。
五大国の英雄。
世界の象徴達。
その全員が。
ここに。




