3-1 アーカディア
第三章
オラクル編
第一話
アーカディアは変わっていなかった。
巨大な城壁。
空を突く塔群。
世界中の人々で溢れる街路。
五大国のどこにも属さない中立都市。
世界最大の交易都市。
世界最大の金融都市。
そして。
世界で最も多くの秘密が集まる都市。
「相変わらずだな」
グラムが呟く。
セレスが少し驚いた顔をする。
「来たことがあるんですか?」
「ある」
即答だった。
「三回くらい」
「意外だな」
「外交だの、英雄会議だの、で来た」
アベルが笑う。
「全部寝ていたでしゅ」
「余計なこと言うな」
「事実でしょ」
セレスが呆れる。
ノアは初めてだった。
巨大な門を見上げる。
人の流れは止まらない。
商隊。
外交使節団。
学者。
冒険者。
世界中の人間が集まっている。
まるで世界そのものだった。
門前へ到着する。
その時だった。
門番が四人を見る。
正確には。
グラムが持つ封書を。
表情が変わる。
「お待ちしておりました」
静かな声。
門番が深く頭を下げる。
そして。
一般通路とは別の道を示した。
グラムが眉をひそめる。
「面倒な予感しかしないな」
「同感です」
セレスも頷く。
四人は案内されるまま街へ入る。
相変わらず賑やかだった。
市場。
商店。
劇場。
酒場。
見たこともない商品。
聞いたこともない言葉。
様々な国の人々。
グラムが露店を見る。
「肉だな」
「駄目です」
即座にセレスが反応する。
「まだ何も言ってません」
「顔に書いてあります」
アベルが笑う。
ノアも少しだけ口元が緩んだ。
だが。
その時だった。
境界が反応する。
ノアが足を止める。
中央塔。
都市の中心にある巨大な塔。
アーカディアの象徴。
誰もが知る建造物。
だが。
何かがおかしい。
世界の線。
無数の線が。
塔へ向かっている。
人。
国家。
英雄。
金。
情報。
全てが。
あそこへ流れている。
「どうした」
アベルが聞く。
ノアは塔を見上げる。
「分からない」
静かな声。
「だが何かある」
グラムも塔を見る。
「ただの塔だ」
「そう見える」
ノアは呟く。
「だが違う」
その時だった。
一人の男が現れる。
黒い服。
無駄のない所作。
気配が薄い。
まるで最初に会った老人と同じだった。
「お待ちしておりました」
男は頭を下げる。
「会議場へご案内します」
グラムが聞く。
「中央塔か」
男は微笑む。
「はい」
そこまでは予想通りだった。
だが。
男は続ける。
「その地下になります」
静寂。
全員が止まる。
「地下?」
グラムが聞き返す。
男は頷く。
「はい」
アベルが眉をひそめる。
「塔に地下なんてあったか?」
「一般には公開されておりません」
静かな声。
セレスも驚いていた。
アーカディアには来たことがある。
神聖国代表として。
だが。
地下など聞いたことがない。
グラムも同じだった。
何度か来ている。
だが。
地下の存在など知らない。
男は振り返る。
「こちらへ」
四人は顔を見合わせる。
違和感。
それはノアだけじゃない。
全員が感じていた。
アーカディアは知っている。
だが。
今から向かう場所は知らない。
その時。
ノアの境界が再び反応する。
今度ははっきりと。
答えは塔ではない。
もっと下。
もっと深く。
もっと見えない場所。
そこにある。
ノアは中央塔を見上げる。
巨大な建造物。
誰もが知る都市の象徴。
だが。
本当に隠されていたのは。
空ではなかった。
地下だった。




