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英雄狩り 〜最初の獲物を狩った日、世界は俺を敵にした〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-44 古い伝承

第二章


焔帝編


第四十四話


英雄達の夜


復興祭が終わった夜。


聖都ルミナスは静かだった。


昼間の喧騒が嘘みたいに。


遠くから酒場の笑い声だけが聞こえる。


街には灯りが戻っていた。


人々の顔にも。


少しずつ笑顔が戻っていた。


城壁の上。


焚き火が揺れている。


そこには四人がいた。


グラム。


セレス。


アベル。


ノア。


誰かが呼んだわけじゃない。


自然と集まっていた。


そんな夜だった。


グラムは肉を焼いている。


既に何本目か分からない。


セレスが呆れている。


「食べ過ぎです」


「復興祭だからな」


「終わりました」


「余韻だ」


「意味が分かりません」


アベルが吹き出した。


ノアも少し笑う。


平和だった。


本当に。


しばらく誰も喋らない。


焚き火だけが揺れている。


その時だった。


アベルが空を見上げる。


「終わったな」


静かな声。


グラムが頷く。


「そうだな」


終焉は終わっていない。


世界の謎も残っている。


だが。


少なくとも。


この戦いは終わった。


そんな空気だった。


アベルが言う。


「お前は変わった」


グラムを見る。


弟子を。


グラムは笑った。


「そうか?」


「昔なら」


アベルも笑う。


「黒騎士を追いかけていた」


静寂。


グラムは否定しない。


昔ならそうしていた。


勝ちたかった。


強くなりたかった。


世界最強でありたかった。


だが。


今は違う。


「聖都を守りたかった」


小さな声。


アベルは頷く。


「それでいい」


静かな声。


「ようやく英雄になった」


「今までは何だったんだ」


「馬鹿だ」


「それは知ってる」


二人が笑う。


セレスも吹き出した。


その時。


ノアが口を開く。


「観測者は間違っていると思うか」


静寂。


焚き火が揺れる。


グラムは少し考えた。


そして。


答える。


「分からん」


即答だった。


ノアが眉をひそめる。


グラムは続ける。


「だが」


焚き火を見る。


「嫌いだ」


静かな声。


「人は変われない」


「そんな話はな」


風が吹く。


セレスが頷く。


アベルも。


誰も反論しない。


村の少年。


黒騎士。


聖都の人々。


彼らは見てきた。


人が変わる瞬間を。


だから。


少なくとも今は。


観測者に賛同できなかった。


しばらく沈黙が続く。


その時だった。


アベルが自分の首元へ触れた。


黒い線が繋がっていた場所。


もう何もない。


だが。


違和感だけは残っている。


「俺は少し旅に出る」


静寂。


グラムが眉をひそめる。


「急だな」


「そうでもない」


アベルは笑った。


静かな笑みだった。


「気になることがある」


ノアを見る。


「お前が切ったあれだ」


静寂。


黒い線。


ノアの脳裏に浮かぶ。


アベルは言う。


「何かに繋がっていた」


「どこかへ引っ張られていた」


「誰かに見られていた」


風が吹く。


焚き火が揺れる。


「放っておく気になれん」


静かな声。


「剣を振るより先に」


「確かめたいことができた」


セレスが聞く。


「一人でですか」


アベルは頷く。


「その方が向いている」


グラムが鼻で笑う。


「好きにしろ」


即答だった。


「どうせ止めても行くだろ」


「行くな」


アベルも笑う。


「そうだな」


そして。


ノアを見る。


長く。


静かに。


「もし何か分かったら」


「お前を探す」


ノアは頷いた。


「ああ」


アベルは立ち上がる。


夜空を見上げる。


「どうやら」


静かな声。


「この世界は思ったより面倒らしい」


そして。


剣聖アベルは歩き出す。


五大英雄とも。


ノアとも。


別の道へ。


黒い線の真相を追うために。


その背中が夜の闇へ消えた。


その時だった。


風が吹く。


不自然な風。


三人が同時に顔を上げる。


誰かいる。


城壁の向こう。


黒いローブを纏った老人。


いつ現れたのか分からない。


気配がなかった。


グラムが立ち上がる。


「誰だ」


老人は答えない。


ただ。


三人を見る。


そして。


最後にノアを見る。


長く。


静かに。


老人は懐から封書を取り出した。


黒い封蝋。


見たことのない紋章。


円環の中に七つの星。


老人は封書を差し出す。


「招待状だ」


静かな声。


グラムが眉をひそめる。


「どこからだ」


老人は答える。


「アーカディア」


静寂。


世界最大の中立都市。


五大国の境界に築かれた空中都市。


老人は続ける。


「三日後」


「会議が開かれる」


グラムが聞く。


「何の会議だ」


老人は少しだけ笑った。


「世界の終わりについてだ」


静寂。


「終焉」


「黒騎士」


「観測者」


「お前達が追っていた答えがある」


ノアの目が細くなる。


老人は封書を置いた。


「来るかどうかは自由だ」


風が吹く。


「だが」


「真実を知りたければ来い」


静寂。


グラムが聞く。


「誰が主催だ」


老人は振り返る。


そして。


静かに答えた。


「オラクル」


その名前だけが残る。


老人は風と共に消えた。


最初からいなかったみたいに。


静寂。


グラムが封書を拾う。


「オラクル」


聞いたことのない名前だった。


セレスがゆっくり言う。


「古い伝承があります」


「世界の均衡を見守る者達」


グラムが鼻で笑う。


「子供向けの昔話だな」


「私もそう思っていました」


セレスも頷く。


だが。


終焉は起きた。


観測者もいた。


黒騎士もいた。


今なら。


昔話では済まされない。


ノアは封書を見つめる。


観測者。


終焉。


ベルグ。


禁域。


巨大な門。


そして。


最初に見たあの塔。


今まで別々だった謎が。


少しずつ繋がり始めている。


アーカディア。


世界最大の中立都市。


そこで待つオラクル。


それは答えなのか。


それとも。


さらに大きな謎の入口なのか。


誰にも分からない。


ただ一つだけ。


確かなことがあった。


世界の物語は。


今から始まる。

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