2-43 聖都復興祭
第二章
焔帝編
第四十三話
黒騎士襲撃から一週間後。
神聖国は復興を祝う祭りを開いていた。
広場には人が溢れている。
露店。
音楽。
笑い声。
まるで戦争などなかったみたいだった。
もちろん。
傷跡は残っている。
崩れた建物。
失われた命。
消えた人々。
全部。
戻らない。
それでも。
人は前を向く。
ノアは広場を歩いていた。
ふと足を止める。
少年がいた。
木剣の少年。
相変わらず剣を振っている。
朝から。
ずっと。
「まだやってるのか」
声を掛ける。
少年は振り返る。
汗だくだった。
「ノアさん」
「祭りだぞ」
「終わったら行きます」
即答。
ノアは少し笑う。
以前なら。
理解できなかった。
だが今は違う。
守りたいものがある。
それだけで人は変われる。
そんな気がしていた。
その時。
広場から歓声が上がる。
グラムだった。
子供達に囲まれている。
肩車。
腕相撲。
剣術ごっこ。
世界最強。
焔帝。
なのに。
やっていることは近所の兄ちゃんだった。
セレスが頭を抱えている。
「仕事してください」
「してる」
「してません」
「交流だ」
「遊んでるだけです」
アベルが笑う。
本当に久しぶりに。
心から。
黒騎士との戦い以降。
どこか憑き物が落ちたみたいだった。
その光景を見ながら。
ノアは思う。
英雄。
昔は嫌いだった。
戦争の象徴だった。
国家の兵器だった。
だが。
今は違う。
英雄がいるから立ち上がれた人もいる。
救われた人もいる。
その時。
祭りの司会者が叫ぶ。
「続いて!」
歓声。
「本日の主役!」
さらに歓声。
「焔帝グラム様です!」
グラムが固まる。
嫌そうな顔。
子供達が笑う。
セレスも笑う。
アベルも。
広場中が笑った。
グラムは大きなため息を吐く。
そして。
仕方なく壇上へ上がる。
数万人が見ている。
グラムは頭を掻いた。
「苦手なんだがな」
静寂。
誰もが聞いている。
グラムは少し考える。
何を話すか。
そして。
諦めたように笑った。
「俺は英雄だ」
静かな声。
広場が静まる。
「だが」
「大した奴じゃない」
子供達が笑う。
グラムも笑う。
「失敗もする」
「負けもする」
「守れなかった奴もいる」
風が吹く。
ベルグ。
リュシア。
黒騎士。
失われた命。
全部思い出す。
「それでも」
静かな声。
「また守る」
広場が静まり返る。
「次も」
「その次も」
「何度でもだ」
夕陽が差し込む。
「それが英雄だからじゃない」
静かな声。
力強く。
「守りたいから守る」
風が吹く。
誰も喋らない。
グラムは笑った。
いつものように。
「だから」
広場を見る。
人々を見る。
子供達を見る。
「お前らも勝手に頑張れ」
静寂。
そして。
爆笑が起きた。
セレスが額を押さえる。
アベルが腹を抱えている。
ノアも笑った。
本当に。
久しぶりに。
その光景を見ながら。
ノアは思う。
英雄とは何か。
答えはもう出ている。
強さじゃない。
才能じゃない。
諦めないこと。
守ること。
そして。
誰かが前を向く理由になること。
夕陽が聖都を照らしていた。
焔帝グラムは笑っていた。
まるで。
燃え続ける焔のように。




