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英雄狩り 〜最初の獲物を狩った日、世界は俺を敵にした〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-42 焔は受け継がれる

第二章


焔帝編


第四十二話


その日の夕方だった。


聖都の広場。


グラムが歩いていると。


見覚えのある少年がいた。


朝の少年だった。


木剣を振っている。


まだ。


続けていた。


汗だくになりながら。


何百回も。


何百回も。


グラムは少し笑う。


「真面目だな」


少年は振り返る。


顔を真っ赤にしながら。


「グラム様!」


「休め」


「まだです!」


即答だった。


グラムが吹き出す。


どこか昔の自分を見ている気分だった。


少年は木剣を握り直す。


そして。


聞いた。


「グラム様」


「何だ」


「英雄って」


静寂。


少年は真っ直ぐ見ていた。


「どうやったらなれるんですか」


風が吹く。


グラムは少し考える。


そして。


答えた。


「なるもんじゃない」


少年が固まる。


グラムは続ける。


「気付いたらなってるもんだ」


意味が分からない。


そんな顔だった。


当然だった。


グラムは笑う。


「俺も英雄になろうと思ったことはない」


静かな声。


「守りたかっただけだ」


風が吹く。


「村を」


「仲間を」


「家族を」


少年は黙って聞いている。


「それを続けてたら」


少し肩を竦める。


「いつの間にか英雄って呼ばれてた」


広場が静まる。


誰もが聞いていた。


グラムは続ける。


「だから目指すな」


静かな声。


「目の前を守れ」


少年の目が揺れる。


「目の前……」


「そうだ」


グラムは木剣を指差す。


「隣に泣いてる奴がいたら助けろ」


「困ってる奴がいたら手を貸せ」


「転んだ奴がいたら起こせ」


風が吹く。


「それを続けろ」


静かな声。


「英雄になれなくても」


「立派な人間にはなれる」


静寂。


少年は何も言わない。


だが。


木剣を握る手だけは強くなった。


その時だった。


アベルが現れる。


腕を組みながら。


「珍しく良いこと言ったな」


グラムが振り返る。


「珍しくは余計だ」


「八割くらい余計なことしか言わんだろ」


「師匠が言うな」


二人が笑う。


少年は目を丸くする。


世界最強と剣聖。


そんな二人が。


まるで親子みたいだった。


アベルは少年を見る。


そして。


静かに聞く。


「何故強くなりたい」


少年は迷わなかった。


「守りたいからです」


即答だった。


アベルは頷く。


満足そうに。


「なら十分だ」


静かな声。


「それだけ忘れるな」


少年が深く頭を下げる。


アベルは去っていく。


グラムも。


そして。


二人の背中を見ながら。


少年は再び木剣を構えた。


夕陽が沈む。


聖都を赤く染める。


ノアはその光景を見ていた。


グラム。


アベル。


少年。


力は受け継がれない。


技術も。


才能も。


だが。


意志は受け継がれる。


守りたいという想いは。


確かに。


人から人へ繋がっていく。


境界が反応する。


世界の線。


人々を繋ぐ線。


それが少しだけ輝いて見えた。


その時だった。


遠くで鐘が鳴る。


一度。


二度。


三度。


聖都の鐘。


平和を告げる鐘だった。


人々が笑う。


子供達が走る。


商人達が店を開く。


失われた日常が戻ってくる。


グラムはその光景を見る。


そして。


小さく笑った。


「悪くない」


静かな声。


ノアは思う。


観測者は。


きっとこういうものを数字にできない。


測れない。


記録できない。


だが。


人が変わる瞬間は確かに存在する。


誰かの言葉で。


誰かの背中で。


誰かの生き方で。


だから。


世界は簡単には終わらない。


そんな気がした。


そして。


ノアはまだ知らない。


この平和が。


最後の穏やかな時間になることを。

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