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英雄狩り 〜最初の獲物を狩った日、世界は俺を敵にした〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-41 選ばれなかった者

第二章


焔帝編


第四十一話


戦いから三日後。


聖都は復興を始めていた。


崩れた城壁。


焼けた家々。


倒れた塔。


傷跡は大きい。


だが。


人々は前を向いていた。


セレスが指揮を執る。


神官達が動く。


兵士達も。


市民達も。


誰も諦めていない。


グラムはその様子を眺めていた。


城壁の上から。


「暇そうですね」


セレスがやって来る。


グラムが笑う。


「失礼だな」


「働いてください」


「働いてる」


「見てるだけです」


「見守るのも仕事だ」


セレスがため息を吐く。


いつものやり取りだった。


だが。


少しだけ安心した。


聖都に日常が戻ってきている。


その時だった。


下の広場から歓声が聞こえる。


グラムが身を乗り出す。


広場。


そこに一人の少年がいた。


木剣を振っている。


必死に。


汗だくで。


転んでも。


何度も立ち上がる。


グラムは少し笑った。


「昔の俺みたいだな」


セレスも見る。


少年は何度も剣を振る。


だが。


上手くいかない。


転ぶ。


また振る。


転ぶ。


また振る。


そして。


ついに木剣を投げ出した。


悔しそうだった。


泣きそうだった。


その時だった。


グラムが飛び降りる。


広場へ。


少年の前へ。


「よう」


少年が驚く。


焔帝グラム。


知らないはずがない。


「ぐ、グラム様!?」


グラムは木剣を拾う。


そして。


少年へ返した。


「何してる」


少年は俯く。


「英雄になりたいんです」


静寂。


広場も静かになる。


皆聞いていた。


少年は拳を握る。


「僕も守りたいんです」


「みんなを」


小さな声。


「でも才能がない」


風が吹く。


「何をやっても駄目です」


「だから……」


悔しそうだった。


本当に。


グラムは少し黙った。


そして。


聞く。


「誰に言われた」


少年が顔を上げる。


「え?」


「才能がないって」


静かな声。


少年は答えられない。


誰にも言われていない。


自分で決めた。


グラムは笑う。


「馬鹿だな」


即答だった。


少年が固まる。


グラムは木剣を肩に乗せる。


「俺はな」


空を見る。


昔を思い出すように。


「選ばれたことなんて一度もない」


静寂。


少年が目を見開く。


周囲の人々も。


グラムは続ける。


「英雄候補?」


鼻で笑う。


「落ちた」


「三回」


広場がざわつく。


セレスも知らなかった。


「剣術大会?」


「予選落ち」


「二回」


さらにざわつく。


グラムは平然としている。


「才能ある奴は沢山いた」


静かな声。


「俺より強い奴もいた」


「頭が良い奴もいた」


「能力が凄い奴もいた」


風が吹く。


「じゃあ何で英雄になれたんですか」


少年が聞く。


グラムは笑った。


いつものように。


「諦めなかったからだ」


静寂。


「それだけだ」


即答だった。


少年が黙る。


グラムは木剣を渡す。


「選ばれる奴もいる」


「選ばれない奴もいる」


静かな声。


「だがな」


少年の頭を軽く叩く。


「選ばれなかったから終わりじゃない」


風が吹く。


「そこから始まる奴もいる」


広場が静まる。


誰も喋らない。


グラムは歩き出す。


そして。


振り返らず言った。


「俺はそっちだった」


少年は木剣を見る。


震える手で。


握り直す。


強く。


今度は投げ出さない。


その姿を見ながら。


ノアは遠くから思う。


選ばれなかった者。


それは。


グラムだけじゃない。


自分もだ。


セレスも。


アベルも。


皆どこかで選ばれなかった。


だからこそ。


今ここにいる。


その時だった。


境界が反応する。


一瞬だけ。


世界の線が揺れる。


遠く。


遥か遠く。


北の空。


誰かがこちらを見ている。


観測者ではない。


黒い影でもない。


別の誰か。


ノアの目が細くなる。


世界はまだ終わっていない。


だが。


今はいい。


今だけは。


英雄の背中を見ていたかった。

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