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英雄狩り 〜最初の獲物を狩った日、世界は俺を敵にした〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-39 失われた英雄

第二章


焔帝編


第三十九話


静寂。


黒騎士は動かなかった。


胸の傷から。


黒い霧が流れ続けている。


アベルも追撃しない。


ただ見ている。


真っ直ぐに。


昔の仲間を。


黒騎士は傷口へ手を当てる。


黒い霧が指の隙間から零れ落ちる。


血ではない。


命でもない。


何か別のもの。


そして。


小さく笑った。


「久しぶりだ」


静かな声。


アベルは黙る。


黒騎士は続けた。


「痛みを感じたのは」


風が吹く。


聖都が静まり返る。


誰も動けない。


黒騎士が空を見る。


遠く。


遥か遠く。


何かを思い出すように。


「昔は」


「毎日こんなだったな」


静寂。


アベルが小さく笑う。


「お前は怪我ばかりしていた」


「お前が斬るからだ」


「弱かったからだ」


「今なら勝てる」


「無理だな」


二人が笑う。


グラムは言葉を失っていた。


戦っている。


なのに。


どこか懐かしそうだった。


その時だった。


ノアの境界が反応する。


黒騎士へ繋がる線。


太い一本の線。


それが少しずつ切れている。


誰かに繋がっていた線。


支配。


拘束。


命令。


そんなものだったのかもしれない。


黒騎士が気付く。


自分の胸を見る。


そして。


苦笑した。


「終わりか」


静かな声。


アベルの顔色が変わる。


「レオン」


黒騎士が顔を上げる。


その目は。


初めて人間だった。


感情があった。


迷いも。


悲しみも。


後悔も。


全部。


そこにあった。


「思い出した」


風が吹く。


「全部」


静寂。


セレスが息を呑む。


黒騎士は聖都を見る。


燃える街。


負傷者。


泣いている子供。


震える兵士。


そして。


自分が斬った人々。


「俺がやったのか」


小さな声。


誰も答えない。


答えられない。


黒騎士は目を閉じた。


震えている。


世界を滅ぼすような力を持つ男が。


子供みたいに。


震えていた。


「そうか」


静かな声。


「俺は」


長い沈黙。


そして。


笑った。


泣きそうな顔で。


「守れなかったんだな」


静寂。


アベルは何も言わない。


言えない。


黒騎士。


レオン。


彼もまた英雄だった。


誰かを守るために剣を取った。


強くなった。


戦った。


そして。


壊れた。


ノアは理解する。


グラムと同じだった。


セレスとも。


アベルとも。


みんな同じだ。


守りたかった。


ただそれだけだった。


その時。


空が揺れた。


全員が顔を上げる。


黒い雲。


その奥。


何かが見える。


巨大な影。


黒騎士の顔色が変わる。


「まずい」


初めてだった。


焦りを見せたのは。


アベルも気付く。


「来るのか」


黒騎士が頷く。


そして。


グラムを見る。


初めて。


焔帝を。


真っ直ぐに。


「お前は」


静かな声。


「諦めるな」


グラムが眉をひそめる。


黒騎士は笑う。


少しだけ。


「俺みたいになるな」


風が吹く。


その瞬間。


黒騎士へ繋がっていた最後の線が切れた。


完全に。


ノアには見えた。


そして。


黒騎士の身体が崩れ始める。


黒い霧となって。


消えていく。


アベルが飛び出す。


「レオン!」


黒騎士は笑った。


穏やかに。


本当に穏やかに。


「悪かったな」


静かな声。


「待たせた」


アベルの手が届く。


だが。


掴めない。


身体が消えていく。


黒騎士は最後に空を見る。


そして。


小さく呟いた。


「守りたかったな」


その言葉を最後に。


黒騎士は消えた。


風だけが残る。


静寂。


誰も喋らない。


アベルは立ち尽くしていた。


伸ばした手のまま。


二十年間。


探し続けた仲間。


ようやく会えた。


そして。


また失った。


グラムが近付く。


何も言わない。


ただ。


隣に立つ。


アベルは空を見上げた。


涙は流さない。


だが。


その背中は。


誰よりも寂しそうだった。

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