2-34 人は変われるか
第二章
焔帝編
第三十四話
戦いは十分で終わった。
グラムが三人を叩き伏せ。
セレスが負傷者を治療し。
アベルが残りを制圧した。
終わってみれば。
圧倒的だった。
だが。
誰も勝った気分ではなかった。
略奪者達は帝国兵ではない。
魔物でもない。
ただの人間だった。
終焉で故郷を失った人々。
昨日までは。
襲われる側だった者達。
村の広場。
縄で拘束された略奪者達が座っている。
俯いたまま。
誰も目を合わせない。
グラムは彼らを見る。
怒っている。
だが。
剣は抜かない。
その時。
一人の少年が叫んだ。
十五歳くらい。
痩せている。
顔は泥だらけだった。
「仕方なかったんだ!」
静寂。
村人達が睨む。
少年は震えていた。
怖いのだ。
それでも。
叫ぶ。
「俺達の村は消えた!」
涙が溢れる。
「父さんも!」
「母さんも!」
「妹も!」
声が震える。
「俺達はどうすれば良かったんだ!」
誰も答えない。
答えられない。
少年は泣いていた。
本気で。
心の底から。
ノアは見ていた。
怒りではない。
憎しみでもない。
絶望だった。
観測者の言葉が蘇る。
人は変われない。
追い詰められれば争う。
奪う。
傷付ける。
確かに。
目の前にあった。
その時だった。
グラムが歩く。
少年の前へ。
静かに。
少年が睨む。
涙を流しながら。
「殺せよ!」
叫ぶ。
「どうせ俺達は悪者だ!」
グラムは黙る。
数秒。
そして。
座った。
少年の前に。
同じ目線で。
全員が固まる。
グラムは言う。
「俺も似たようなもんだった」
静かな声。
少年が顔を上げる。
グラムは空を見る。
昔を思い出すように。
「腹が減った」
「寒かった」
「明日生きてるかも分からなかった」
風が吹く。
「だから盗んだこともある」
静寂。
ノアが目を見開く。
セレスも。
グラムは気にしない。
「褒められた話じゃない」
苦笑する。
「何度も殴られた」
少年は黙って聞いている。
グラムは続ける。
「でもな」
静かな声。
「そこで誰かを恨み続けたら終わりだ」
少年の拳が震える。
「じゃあどうしろって言うんだ!」
叫ぶ。
「俺達は何も悪くない!」
「全部奪われたんだ!」
グラムは頷く。
否定しない。
「そうだな」
静寂。
「悪くない」
少年が固まる。
グラムは続ける。
「だが」
目を合わせる。
真っ直ぐ。
「だからって」
「奪っていい理由にはならん」
静かな声。
重かった。
少年は俯く。
反論できない。
グラムは立ち上がる。
そして。
村長を見る。
「飯はあるか」
全員が固まる。
村長が戸惑う。
「ありますが……」
グラムは頷く。
そして。
拘束された略奪者達を指差した。
「食わせろ」
静寂。
村人達がざわつく。
当然だった。
襲撃犯だ。
敵だ。
だが。
グラムは気にしない。
「腹減ってるだろ」
少年が目を見開く。
信じられないものを見るように。
グラムは笑う。
いつものように。
「飯食ってから考えろ」
静かな声。
「人間、腹減ると碌なこと考えん」
その言葉に。
アベルが吹き出した。
セレスも笑う。
ノアも。
少しだけ。
少年は俯く。
そして。
小さく。
本当に小さく。
泣きながら言った。
「……ごめんなさい」
静寂。
誰も責めなかった。
グラムも。
セレスも。
村人達も。
その光景を見ながら。
ノアは思う。
観測者は見たのだろう。
争う人間を。
傷付け合う人間を。
だが。
今見ていないものもある。
許そうとする人間。
守ろうとする人間。
立ち直ろうとする人間。
それもまた。
人間だった。
夕陽が沈む。
村に少しずつ笑顔が戻る。
その光景を見ながら。
ノアは初めて。
観測者へ反論したくなった。
人は変われない。
本当にそうだろうか。




