2-33 守る者たち
第二章
焔帝編
第三十三話
翌朝。
グラムはいつも通りだった。
大声で笑い。
大量に飯を食い。
セレスに呆れられている。
昨日までの空気が嘘みたいだった。
アベルも少しだけ表情が柔らかい。
ノアは思う。
これが本来の姿なのかもしれない。
英雄も。
剣聖も。
特別な存在ではない。
ただ。
前を向こうとしている人間だ。
その時だった。
馬の蹄の音が響く。
一頭。
全速力。
こちらへ向かってくる。
兵士だった。
息を切らしている。
顔面蒼白。
嫌な予感しかしない。
「報告!」
グラムが立ち上がる。
兵士は地面へ膝をついた。
「帝国西部!」
静寂。
「終焉現象発生!」
空気が凍る。
兵士は続ける。
「都市が一つ消失!」
グラムの表情が変わる。
帝国だった。
今まで神聖国ばかりだった。
だが。
違った。
終焉は国を選ばない。
「場所は」
「レイドルです!」
人口十二万。
帝国有数の工業都市。
グラムは舌打ちした。
セレスも顔を曇らせる。
アベルは黙ったまま空を見る。
そして。
小さく呟いた。
「始まったな」
静かな声。
誰も聞き返さない。
聞きたくなかった。
その時だった。
ノアの境界が反応する。
世界の線。
無数の線。
その流れが見える。
帝国。
神聖国。
共和国。
全て。
同じ方向へ流れている。
まるで。
何かが世界中から集めているみたいに。
命を。
願いを。
歴史を。
ノアの顔色が変わる。
「違う」
グラムが振り返る。
「何がだ」
ノアは遠くを見る。
見えてしまった。
終焉が起きた場所。
その全てを。
「終焉は広がってない」
静寂。
セレスが眉をひそめる。
「どういうことですか」
ノアは答える。
「集まっている」
風が吹く。
全員が黙る。
「全部」
「一ヶ所へ」
静寂。
アベルだけが反応した。
目を細める。
「見えるのか」
小さな声。
ノアは頷く。
アベルは空を見上げる。
苦しそうに。
そして。
諦めたように笑った。
「そういうことか」
グラムが聞く。
「何だ」
アベルは少し黙った。
だが。
首を横に振る。
「まだ早い」
静かな声。
「今は守れ」
即答だった。
「考えるのは後だ」
グラムが笑う。
「それは得意だ」
セレスが呆れる。
「考えてください」
「嫌だ」
「少しは」
「嫌だ」
アベルが吹き出した。
ノアも少しだけ笑う。
その時だった。
遠くから悲鳴が聞こえた。
全員の顔色が変わる。
村だった。
山の麓。
小さな村。
黒煙が上がっている。
グラムが動く。
一瞬だった。
焔圧。
圧縮。
増幅。
解放。
地面が砕ける。
「行くぞ!」
全員が続く。
数分後。
村へ到着する。
そして。
絶句した。
終焉ではない。
人だった。
武装集団。
略奪者。
終焉によって家を失った難民達。
生きるために。
別の村を襲っていた。
泣き叫ぶ子供。
逃げる老人。
燃える家。
グラムの顔が険しくなる。
「馬鹿野郎が」
小さな声。
怒っていた。
本気で。
その時。
ノアは気付く。
これだ。
観測者が見ていたもの。
人は苦しむ。
追い詰められる。
そして。
誰かを傷付ける。
醜い部分。
確かに存在する。
だが。
次の瞬間だった。
村人達が立ち上がる。
逃げない。
家族を守るために。
子供を守るために。
武器を取る。
震えながら。
それでも。
前へ出る。
セレスが走る。
グラムも。
アベルも。
そして。
ノアも。
守るために。
その姿を見ながら。
ノアは思う。
観測者は正しいのかもしれない。
人は争う。
人は傷付け合う。
だが。
それだけじゃない。
守ろうとする人間もいる。
だから。
まだ答えは出せない。




