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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-35 焔の答え

第二章


焔帝編


第三十五話


夜だった。


村では炊き出しが行われていた。


村人達。


難民達。


さっきまで殺し合っていた者達が。


同じ鍋を囲んでいる。


不思議な光景だった。


グラムは肉を頬張っていた。


五人前くらい。


既に食べている。


セレスが呆れている。


「食べ過ぎです」


「働いたからな」


「あなただけ量がおかしいです」


「英雄だからな」


「関係ありません」


アベルが吹き出す。


ノアも少しだけ笑った。


平和だった。


少なくとも。


今この瞬間だけは。


その時だった。


グラムが立ち上がる。


村の中央へ歩いていく。


誰もが見る。


英雄だから。


焔帝だから。


グラムは少し頭を掻いた。


珍しく困った顔をしている。


「演説とか苦手なんだがな」


村人達が笑う。


少しだけ。


空気が和らぐ。


グラムは周囲を見る。


村人。


難民。


老人。


子供。


全員を。


そして。


静かに言った。


「俺は英雄だ」


静寂。


誰も喋らない。


グラムは続ける。


「だから」


「何でもできると思われている」


苦笑する。


「違う」


風が吹く。


「俺にも無理なことはある」


「救えない命もある」


「守れない人もいる」


静かな声。


重かった。


ベルグ。


リュシア。


消えた都市。


グラム自身が一番分かっている。


救えなかったことを。


「今日もそうだ」


村人達が顔を上げる。


グラムは空を見る。


「終焉は止まっていない」


「また誰かが死ぬ」


静寂。


誰も否定できない。


事実だから。


その時だった。


グラムが笑った。


いつものように。


少しだけ。


「だがな」


静かな声。


「だから諦める理由にはならん」


風が吹く。


「一人救えたなら」


「次も救う」


「十人救えたなら」


「百人を目指す」


焚き火が揺れる。


「全部守れなくても」


「目の前は守る」


村人達が聞いている。


誰一人として目を逸らさない。


グラムは続けた。


「英雄ってのはな」


少し考える。


そして。


笑った。


「諦めが悪い奴のことだ」


静寂。


セレスが笑う。


アベルも。


ノアも。


それは。


あまりにもグラムらしい答えだった。


英雄とは何か。


力じゃない。


才能でもない。


諦めないこと。


それが。


焔帝グラムの答えだった。


その時だった。


村の子供が手を挙げる。


小さな男の子だった。


七歳くらい。


「じゃあ」


グラムが見る。


男の子は真っ直ぐ聞いた。


「グラム様は怖くないの?」


静寂。


村人達も聞いている。


グラムは少しだけ驚く。


そして。


笑った。


「怖いぞ」


即答だった。


全員が固まる。


グラムは続ける。


「毎回怖い」


「負けるかもしれん」


「守れないかもしれん」


「死ぬかもしれん」


静かな声。


「でもな」


男の子の頭を撫でる。


優しく。


「怖いから逃げるんじゃなくて」


「怖くても進むんだ」


風が吹く。


男の子は真剣に聞いている。


グラムは笑った。


「その方が格好いいだろ?」


村中から笑い声が起きる。


セレスが額を押さえる。


「最後が台無しです」


「大事だぞ」


「大事じゃありません」


アベルが笑う。


本当に久しぶりに。


心から。


ノアはその光景を見ていた。


観測者。


人は変われない。


そう言った。


だが。


もし。


人が変われないなら。


この光景は何だ。


憎しみ合っていた者達。


奪い合っていた者達。


それでも。


同じ飯を食っている。


笑っている。


境界が反応する。


ほんの少しだけ。


ノアは気付く。


世界の線。


人と人を繋ぐ線。


それが。


少しだけ強くなっている。


気がした。


その夜。


焚き火の前で。


ノアは初めて思った。


もしかしたら。


観測者は間違っているのかもしれない。


そして。


もしそうなら。


自分が証明しなければならない。


人は変われると。

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