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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-28 師と弟子

第二章


焔帝編


第二十八話


アベルが消えてから。


誰も動かなかった。


風だけが吹いている。


崩れた城壁。


裂けた大地。


戦いの痕跡だけが残っていた。


グラムは立ち尽くしている。


剣を握ったまま。


ノアは初めて見る。


こんなグラムを。


悔しそうだった。


怒っているようにも見えた。


だが。


それ以上に。


迷っていた。


セレスが静かに近付く。


「知っている人だったんですね」


グラムは少し黙った。


そして笑う。


苦笑いだった。


「知ってるも何も」


空を見る。


懐かしそうに。


「俺の師匠だ」


静寂。


兵士達がざわつく。


焔帝グラム。


世界最強。


その男に師匠がいた。


それだけで信じられない話だった。


グラムは城壁へ腰掛ける。


珍しかった。


疲れたような顔をしている。


「十五歳だった」


小さな声。


誰も遮らない。


「山で死にかけてた俺を拾った」


風が吹く。


「飯をくれて」


「剣を教えて」


「殴ってきた」


セレスが吹き出す。


グラムも笑う。


「毎日殴られた」


「理不尽なくらいにな」


「今思うと半分くらい八つ当たりだった気もする」


少しだけ。


空気が和らぐ。


だが。


グラムの笑顔は長く続かなかった。


「でも強かった」


静かな声。


「本当に」


ノアは聞いていた。


グラムが誰かを尊敬する姿。


初めてだった。


「俺が初めて勝ちたいと思った人だ」


静寂。


世界最強の原点。


そこにいたのがアベルだった。


その時だった。


ノアが聞く。


「何故死んだことになっている」


グラムの表情が変わる。


少しだけ。


重くなる。


「死んだからだ」


即答だった。


「俺が埋葬した」


静寂。


セレスも息を呑む。


「じゃあ」


「分からん」


グラムは首を振る。


「だから会いに行く」


迷いはなかった。


弟子の顔だった。


焔帝ではない。


世界最強でもない。


ただの弟子。


それだけだった。


その時。


一人の兵士が駆け寄ってくる。


「報告!」


息を切らしている。


またか。


誰もがそう思った。


兵士は紙を差し出す。


「北方監視部隊より」


グラムが受け取る。


目を通す。


そして。


顔が変わる。


「どうした」


ノアが聞く。


グラムは紙を渡した。


そこには一文だけ書かれていた。


《剣聖アベル、北の禁域へ進行中》


静寂。


セレスが眉をひそめる。


「禁域?」


グラムの顔から笑みが消える。


「最悪だな」


小さく呟く。


ノアが聞く。


「何だそこは」


グラムは少し迷った。


だが。


答える。


「誰も近付かない場所だ」


静かな声。


「五大国全部が立入禁止にしている」


セレスの表情も曇る。


知っているらしい。


「昔からあるんです」


「何があるかも分からない」


「誰が作ったかも分からない」


風が吹く。


ノアの境界が反応する。


嫌な感覚。


あの塔に近い。


観測者に近い。


世界の外側に近い。


そんな違和感。


グラムが立ち上がる。


迷いなく。


「行くぞ」


セレスが頷く。


ノアも。


だが。


出発しようとしたその時。


境界が再び反応した。


強く。


今までで一番。


世界の線が見える。


無数の線。


国。


人。


英雄。


全てを繋ぐ線。


そして。


その先。


遥か北。


禁域の中心。


何かがある。


巨大な。


圧倒的な。


世界そのものみたいな何か。


ノアは息を呑む。


そして。


初めて理解する。


アベルは逃げていない。


向かっている。


何かを確かめるために。


いや。


何かを止めるために。

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