2-27 最強vs最強
第二章
焔帝編
第二十七話
轟音。
いや。
音すら遅かった。
グラムとアベル。
二人が消える。
そう見えた。
次の瞬間。
都市の外壁が吹き飛ぶ。
大地が割れる。
空気が爆発する。
兵士達は何が起きたのか理解できない。
見えない。
速過ぎる。
ただ。
一つだけ分かる。
化け物同士が戦っている。
それだけだった。
グラムの剣が振られる。
焔圧。
圧縮。
増幅。
解放。
巨大な熱量が大地を焼く。
普通なら都市ごと消し飛ぶ。
だが。
アベルは避けない。
剣を振る。
ただそれだけ。
熱量が消える。
真っ二つに。
まるで炎そのものを斬ったように。
グラムが笑う。
「やっぱりな!」
アベルも笑う。
「成長したな」
二人の剣がぶつかる。
衝撃。
空が割れる。
雲が吹き飛ぶ。
兵士達が耳を塞ぐ。
セレスも顔をしかめる。
「何ですかこれ……」
ノアも黙る。
戦いじゃない。
災害だ。
人間が立ち入っていい領域ではない。
その時だった。
境界が反応する。
ノアはアベルを見る。
違和感。
いや。
異常。
アベルは生きていない。
生命の線がない。
因果の線もない。
それなのに。
剣だけが存在している。
剣だけが。
異様に濃い。
まるで。
人間が剣を持っているんじゃない。
剣そのものが人間になったみたいに。
ノアの背筋が冷える。
「グラム!」
叫ぶ。
戦場の向こう。
グラムが振り返る。
「何だ!」
「そいつは人じゃない!」
静寂。
アベルの笑みが深くなる。
初めてだった。
感情が見えたのは。
嬉しそうだった。
本当に。
「見えるのか」
小さな声。
グラムが眉をひそめる。
アベルはノアを見る。
真っ直ぐに。
「久しぶりだな」
静かな声。
「境界を見る者は」
ノアの目が細くなる。
まただ。
観測者も言った。
選定者も言った。
そして今。
アベルも。
こいつらは何を知っている。
アベルは剣を肩へ担ぐ。
「なるほど」
「だから動き出したか」
意味が分からない。
だが。
次の瞬間。
アベルの雰囲気が変わる。
笑みが消える。
静かに。
本当に静かに。
「グラム」
呼ぶ。
グラムも真顔になる。
二十年前の弟子と師。
そんな空気だった。
「お前は何のために戦う」
静寂。
グラムは即答する。
「守るためだ」
迷いがない。
アベルは聞く。
「全部守れるか」
「無理だ」
即答。
「だが諦めない」
アベルは少しだけ笑う。
どこか安心したように。
そして。
空を見上げる。
黒い雲。
終焉の気配。
世界の歪み。
全部見えているみたいだった。
「そうか」
小さく呟く。
「ならお前はまだ大丈夫だ」
静寂。
グラムが眉をひそめる。
「何の話だ」
アベルは答えない。
代わりに。
ゆっくり剣を納める。
全員が固まる。
戦いをやめた。
自分から。
グラムですら動けない。
アベルは振り返る。
そして歩き出す。
都市の外へ。
グラムが叫ぶ。
「待て!」
アベルは止まらない。
「何故だ!」
「何故こんなことをする!」
静寂。
アベルは少しだけ振り返った。
その目は。
とても疲れていた。
「俺も守ろうとした」
風が吹く。
「だが届かなかった」
小さな声。
「だから確かめている」
意味は分からない。
だが。
悲しそうだった。
今までで初めて。
剣聖アベルが。
一人の人間に見えた。
その時。
ノアの境界が反応する。
アベルの背後。
遠く。
遥か遠く。
何かが見える。
黒い影。
ベルグで見た存在。
観測者ではない。
別の誰か。
そして。
アベルへ繋がる一本の線。
今まで見えなかった線。
それが。
どこかへ伸びている。
ノアは息を呑む。
理解した。
アベルの先がいる。
アベルは振り返らないまま。
最後に一言だけ残した。
「追ってこい」
静かな声。
「答えが欲しいなら」
そして。
消えた。
風だけが残る。
グラムは黙っていた。
拳を握り締めたまま。
悔しそうに。
苦しそうに。
そして。
少しだけ嬉しそうに。
「生きてたか」
小さく呟く。
師への言葉だった。
ノアは空を見る。
観測者。
黒い影。
アベル。
終焉。
世界の謎は深まる。
そしてグラムは。
初めて追う側になった。




