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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-25 黒い影

第二章


焔帝編


第二十五話


ノアは足を止めた。


遥か遠く。


神聖国の国境付近。


普通なら見えるはずがない。


だが。


見えていた。


境界が見せている。


世界を繋ぐ線。


その先に立つ存在を。


黒い影。


ベルグ上空で見た。


グラムが届かなかった相手。


空を斬った存在。


影は動かない。


ただ。


こちらを見ている。


ノアだけを。


その時だった。


視線が合う。


本当に。


一瞬だけ。


黒い影が微かに笑った気がした。


次の瞬間。


消える。


最初からいなかったみたいに。


完全に。


ノアは眉をひそめる。


「どうした」


グラムが聞く。


ノアは少し迷った。


だが。


答える。


「いた」


静寂。


グラムの顔が変わる。


「黒い影か」


ノアは頷く。


セレスも表情を引き締める。


神殿の空気が変わった。


あの存在だけは。


全員が覚えている。


ベルグ。


空を裂いた剣。


そして。


世界最強のグラムが届かなかった相手。


グラムは笑った。


楽しそうに。


本当に。


久しぶりに。


「ようやくか」


セレスが呆れる。


「嬉しそうですね」


「そりゃな」


即答だった。


「借りがある」


グラムは空を見る。


焔帝グラム。


世界最強。


その男が初めて敗北を認めた相手。


忘れるはずがない。


その時。


神殿の扉が開いた。


兵士が飛び込んでくる。


顔面蒼白だった。


「報告!」


息を切らしている。


嫌な予感しかしない。


「北部防衛都市アルトスより連絡!」


静寂。


兵士は叫んだ。


「敵襲です!」


グラムが眉をひそめる。


「終焉じゃないのか」


兵士は首を振る。


震えながら。


「人です」


その場の全員が固まった。


人。


今。


そんな報告は想定していなかった。


兵士は続ける。


「たった一人です」


静寂。


グラムの目が細くなる。


セレスも。


ノアも。


嫌な予感がする。


「被害は」


兵士が唇を震わせる。


「アルトス守備隊五千」


「壊滅」


神殿が静まり返る。


誰も理解できない。


五千。


一人。


釣り合わない。


あり得ない。


「英雄か」


グラムが聞く。


兵士は首を振った。


「分かりません」


「ですが」


兵士の顔から血の気が引いている。


「生き残った兵士の証言があります」


静寂。


兵士はゆっくり言った。


「敵は剣を一度しか振っていないそうです」


グラムが立ち上がる。


空気が変わる。


セレスも気付く。


ノアも。


全員が同じことを考えた。


ベルグ。


空を裂いた剣。


黒い影。


兵士は最後の報告を口にする。


「敵は北へ移動中」


「進路上には三つの都市があります」


静寂。


グラムは剣を手に取る。


迷いなく。


「行くぞ」


セレスが立ち上がる。


ノアも。


今度は違う。


終焉ではない。


観測者でもない。


目の前にいる敵だ。


そして。


グラムは少しだけ笑った。


「ようやく会えるな」


世界最強の英雄。


焔帝グラム。


その瞳に宿っていたのは恐怖ではない。


純粋な闘志だった。

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