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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-24 英雄とは

第二章


焔帝編


第二十四話


聖都ルミナスへ戻った頃には朝になっていた。


神聖国は騒然としていた。


リュシア消失。


人口十五万。


生存者一名。


信じられるはずがない。


だが。


事実だった。


街は消えた。


人も消えた。


残ったのは少女一人だけ。


神殿前には人が集まっていた。


市民。


兵士。


神官。


誰もが不安そうな顔をしている。


セレスが馬車から降りる。


その瞬間だった。


歓声が上がった。


「聖女様だ!」


「聖女様が戻られた!」


「助かる!」


「もう大丈夫だ!」


人々が涙を流していた。


安堵していた。


まるで。


セレスがいるだけで救われたように。


ノアはその光景を見ていた。


不思議だった。


セレスは何もしていない。


まだ。


何一つ。


問題は解決していない。


それなのに。


人々は笑っている。


セレスがいるだけで。


その時。


少女がセレスの服を握った。


不安そうに。


震えながら。


セレスはしゃがみ込む。


視線を合わせる。


そして。


優しく笑った。


「大丈夫です」


少女の頭を撫でる。


「私がいます」


静かな声。


少女の震えが止まる。


ノアは気付く。


これか。


グラムが言っていたもの。


守るということ。


戦うことじゃない。


勝つことでもない。


誰かに安心を与えること。


それもまた。


英雄なのだと。


その時だった。


神殿の鐘が鳴る。


重い音。


街全体へ響く。


神官達が慌ただしく動き始める。


セレスの表情が変わった。


嫌な予感。


グラムも気付く。


ただ事じゃない。


一人の老神官が駆け込んでくる。


顔面蒼白だった。


「聖女様!」


息を切らしながら。


叫ぶ。


「西部だけではありません!」


静寂。


「北部でも都市が消えました!」


空気が凍る。


セレスの顔色が変わる。


「どこですか」


「アルトスです」


人口八万。


神聖国北部の防衛都市。


グラムが舌打ちする。


「またか」


老神官は首を振る。


まだ終わらない。


「さらに」


声が震えている。


「東部でも」


静寂。


誰も喋れない。


「二都市」


「消失」


神殿が静まり返る。


ノアの背筋が冷える。


速い。


速過ぎる。


観測者が消えた直後から。


被害が急拡大している。


執行者の言葉を思い出す。


終焉。


世界の寿命。


いや。


違う。


ノアには見えていた。


あれは寿命じゃない。


何かが壊している。


その時だった。


グラムが立ち上がる。


迷いなく。


「行くぞ」


セレスが振り返る。


グラムは笑っていた。


いつものように。


「全部助けるんだろ?」


静かな声。


「なら急がないとな」


セレスが呆れたように笑う。


「無茶です」


「知ってる」


「無理です」


「知ってる」


「全部は救えません」


静寂。


グラムは少しだけ考える。


そして。


答えた。


「かもしれんな」


初めてだった。


グラムが弱音に近い言葉を吐いたのは。


だが。


続ける。


「それでもだ」


人々を見る。


不安そうな顔。


怯えた顔。


助けを求める顔。


「救える奴は救う」


静かな声。


「俺達が諦めたら終わりだ」


神殿が静まり返る。


誰も反論できない。


セレスも。


ノアも。


グラムは剣を担ぐ。


そして歩き出した。


その背中を見ながら。


ノアは思う。


英雄とは何だろう。


世界を救う存在か。


国を守る存在か。


違うのかもしれない。


もしかしたら。


英雄とは。


絶望の中でも。


諦めない人間のことなのかもしれない。


その時だった。


ノアの境界が反応する。


一瞬。


本当に一瞬だけ。


世界の線が見えた。


そして。


その先に。


何かを見た。


遠く。


遥か遠く。


神聖国の外。


誰かが立っている。


こちらを見ている。


黒い影。


あの時の。


ベルグで見た存在。


ノアの目が細くなる。


影は動かない。


ただ。


見ている。


まるで。


何かを待つように。

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