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2-22 黒い亀裂

第二章


焔帝編


第二十二話


空が割れていた。


黒い亀裂。


世界そのものが裂けたみたいに。


そこにいた。


何かが。


人の形にも見える。


だが。


人間ではない。


グラムは直感した。


今まで出会った誰とも違う。


執行者とも。


黒騎士とも。


違う。


根本的に。


違う。


執行者が前へ出る。


静かに。


迷いなく。


観測者はそれを見て笑った。


「久しぶりだな」


静かな声。


男でも女でもない。


年齢すら分からない。


執行者は答える。


「早い」


観測者が肩を竦める。


「そうか?」


「十分待ったつもりだった」


意味が分からない。


だが。


二人が知り合いだということだけは分かった。


それも。


遥か昔から。


グラムが聞く。


「何者だ」


観測者は答えない。


代わりに。


ノアを見る。


真っ直ぐに。


その瞬間。


境界が反応した。


世界が変わる。


見える。


法則。


繋がり。


因果。


世界を構成する無数の線。


だが。


観測者だけが違う。


どこにも繋がっていない。


世界の外にいる。


そんな感覚だった。


観測者が小さく笑う。


「なるほど」


「見えるのか」


ノアは答えない。


だが。


観測者は気にしなかった。


むしろ。


少し嬉しそうだった。


「面白い」


執行者の目が細くなる。


観測者は視線を外さない。


ずっとノアを見ている。


まるで。


何かを確かめるように。


その時だった。


遠くで轟音が響く。


都市の一角が消える。


爆発ではない。


崩壊でもない。


ただ。


存在が消える。


グラムが歯を食いしばる。


観測者は振り返りもしない。


「気に入らんな」


グラムが言った。


静かな声だった。


だが。


怒っていた。


観測者が初めてグラムを見る。


「何がだ」


「勝手に人を諦めるな」


静寂。


観測者は黙る。


グラムは続ける。


「世界がどうとか知らん」


「人が変わらないとかも知らん」


拳を握る。


「だが」


「俺は守りたい奴を守る」


「それだけだ」


風が吹く。


観測者は数秒黙った。


そして。


少しだけ笑った。


「そうか」


馬鹿にしているようには見えなかった。


むしろ。


懐かしいものを見るような顔だった。


その時。


空の亀裂が閉じ始める。


観測者の姿が薄れていく。


帰るのだ。


どこかへ。


世界の外側へ。


消える直前。


観測者はノアを見る。


そして。


最後に一言だけ残した。


「最後まで見届けろ」


静かな声だった。


意味は分からない。


だが。


妙に重かった。


やがて。


空が閉じる。


黒い亀裂が消える。


静寂。


誰も動かない。


しばらくして。


グラムが空を見上げたまま呟く。


「気に食わん」


ノアが聞く。


「何がだ」


グラムは笑った。


いつもの笑顔だった。


だが。


どこか怒っている。


「人が変われないなんて話だ」


静かな声。


「だったら俺達は何のために戦ってる」


風が吹く。


セレスが顔を上げる。


ノアは空を見る。


観測者は消えた。


だが。


あの言葉だけが残っていた。


最後まで見届けろ。


その意味はまだ分からない。


ただ一つだけ。


確かなことがあった。


戦争の向こうにあるもの。


世界の向こうにあるもの。


その存在を。


彼らは知ってしまった。


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