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2-20 神聖国

第二章


焔帝編


第二十話


塔を出た時。


空は赤かった。


夕焼けではない。


燃えていた。


神聖国西部。


遥か彼方。


空そのものが赤く染まっている。


セレスの顔色が変わる。


「そんな……」


グラムが目を細める。


嫌な予感しかしない。


執行者は何も言わない。


ただ空を見ている。


案内人が静かに呟く。


「早過ぎますね」


ノアが聞く。


「何がだ」


案内人は答えない。


代わりに執行者が口を開いた。


「終焉の進行速度だ」


静かな声。


「本来なら数年後だった」


全員が振り返る。


数年後。


つまり。


想定より遥かに早い。


執行者の表情は変わらない。


だが。


僅かに。


本当に僅かに。


焦りが見えた。


「移動する」


その一言で全員が動く。


神聖国西部。


聖都ルミナスから三百キロ離れた辺境都市。


リュシア。


人口十五万。


神聖国有数の交易都市だった。


そして。


三時間後。


到着した。


誰も言葉を発しなかった。


街があった。


建物も。


城壁も。


市場も。


全部残っている。


なのに。


人がいない。


一人も。


本当に。


一人も。


グラムの拳が握られる。


「またか」


レナード。


ベルグ。


そしてリュシア。


三度目だった。


セレスは広場へ走る。


祈るように。


願うように。


だが。


誰もいない。


泣き崩れる子供も。


助けを求める老人も。


誰も。


残っていなかった。


「……遅かった」


小さな声。


セレスが俯く。


グラムも何も言えない。


その時だった。


ノアの足が止まる。


違和感。


広場の中央。


噴水。


そこに何かがある。


近付く。


見る。


地面。


石畳。


そこに刻まれていた。


円。


巨大な円だった。


半径二十メートルほど。


そして。


その中に無数の線。


複雑に絡み合っている。


文字ではない。


魔法陣でもない。


もっと別の何か。


ノアがしゃがみ込む。


触れる。


その瞬間。


境界が反応した。


世界が歪む。


景色が変わる。


見える。


線が。


世界の法則が。


今まで以上に。


鮮明に。


そして。


理解する。


「これは……」


静寂。


グラムが聞く。


「何だ」


ノアは顔を上げた。


信じられなかった。


だが。


間違いない。


「切られている」


執行者の目が細くなる。


ノアは続ける。


「世界と人間を繋ぐ法則が」


静寂。


誰も理解できない。


だが。


執行者だけは理解した。


「なるほど」


初めてだった。


執行者が感心したのは。


「もうそこまで見えるか」


ノアは円を見る。


そして。


さらに気付く。


一箇所だけ。


線が残っている。


完全には消えていない。


何かがいる。


生存者。


グラムも気付く。


「いたのか」


ノアは頷く。


そして。


広場の地下を指差した。


「下だ」


グラムが動く。


一瞬だった。


地面を砕く。


石畳が吹き飛ぶ。


地下空間が現れる。


暗い。


深い。


だが。


確かに。


そこに人がいた。


少女だった。


十歳くらい。


白い髪。


神聖国の服。


怯えた目。


生きている。


唯一。


リュシアで。


たった一人だけ。


少女は震えながら顔を上げる。


そして。


セレスを見る。


次の瞬間。


泣きながら叫んだ。


「逃げて!」


全員が固まる。


少女は泣いていた。


本気で。


心の底から。


「来る!」


静寂。


その瞬間。


世界が揺れた。


執行者の表情が変わる。


初めてだった。


明確な危機感。


ノアも感じる。


境界が悲鳴を上げている。


何かが来る。


今までの敵とは違う。


黒騎士でもない。


選定者でもない。


もっと根本的な何か。


少女が震える。


涙を流しながら。


空を指差した。


「終焉が来る!」


全員が空を見上げる。


そして。


言葉を失った。


空が。


黒く割れていた。


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