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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-17 選定者

第二章


焔帝編


第十七話


男はゆっくりと地面へ降り立った。


足音はない。


衝撃もない。


まるで最初からそこにいたみたいに。


黒い髪。


黒い外套。


年齢は二十代半ばほど。


整った顔立ち。


だが。


目だけが異様だった。


笑っている。


ずっと。


楽しそうに。


世界そのものを玩具として見ているような目だった。


グラムが剣へ手を掛ける。


本能だった。


この男は危険だ。


執行者よりも。


黒騎士よりも。


直感がそう告げていた。


男はグラムを見る。


次にノアを見る。


セレスを見る。


そして笑った。


「なるほど」


楽しそうだった。


本当に。


「今年は当たりか」


誰に言うでもなく呟く。


執行者が前へ出る。


初めてだった。


誰かを庇うような動きを見せたのは。


男が肩を竦める。


「相変わらずだな」


執行者は答えない。


男は気にしない。


勝手に喋る。


「何年ぶりだ?」


「百年?」


「二百年?」


「覚えてないな」


静寂。


ノアの目が細くなる。


百年。


二百年。


普通の人間の言葉じゃない。


男はノアを見た。


そして。


初めて興味を示した。


「お前」


静かな声。


「面白いな」


ノアは黙る。


男は笑う。


「見えているだろ?」


その瞬間。


ノアの背筋が凍る。


誰にも話していない。


境界のことは。


グラムにも。


セレスにも。


案内人にも。


なのに。


男は知っている。


「誰だ」


ノアが聞く。


男は楽しそうに笑った。


「俺か?」


そして。


両手を広げる。


舞台役者みたいに。


「選定者だ」


静寂。


案内人が目を伏せる。


セレスも反応する。


グラムだけが眉をひそめた。


知らない。


その名を。


男は笑った。


「当然か」


「お前達は知らない」


「知る必要もなかった」


風が吹く。


男の外套が揺れる。


そして。


塔の上を見上げた。


「選ぶのが執行者」


「決めるのが選定者」


静かな声。


だが。


その言葉だけで。


空気が重くなる。


ノアは理解する。


こいつは。


執行者と同格だ。


あるいは。


それ以上。


男はセレスを見る。


「失敗しかけたな」


セレスが睨む。


男は笑う。


「気にするな」


「半分以上は失敗する」


グラムの表情が変わる。


「失敗?」


男は振り返る。


「ああ」


平然と言う。


「死ぬ」


静寂。


グラムの目が細くなる。


男は続ける。


「心が壊れる」


「魂が砕ける」


「消える」


まるで天気の話だった。


何の感情もない。


「だから選定なんだ」


グラムの拳が握られる。


怒っていた。


珍しく。


本気で。


「ふざけているのか」


男は首を傾げる。


「何がだ」


「命だぞ」


静寂。


男は数秒考える。


そして。


本当に不思議そうに言った。


「だから何だ?」


空気が凍る。


グラムが踏み出そうとする。


その瞬間。


執行者が口を開いた。


「やめろ」


静かな声。


だが。


命令だった。


グラムが止まる。


選定者は笑う。


「怖いな」


全く怖がっていない。


執行者は選定者を見る。


そして。


初めて感情を見せた。


僅かな苛立ち。


「何をしに来た」


選定者は答える。


「見物だ」


即答だった。


「今年は面白そうだからな」


静寂。


執行者の目が細くなる。


選定者は笑う。


そして。


ノアを指差した。


「特にあいつ」


全員の視線が集まる。


ノアだけが黙っている。


選定者は楽しそうだった。


子供が宝物を見つけたみたいに。


「久しぶりだ」


小さく呟く。


「境界を見る者は」


その瞬間。


第二階層が静まり返った。


案内人の顔色が変わる。


セレスも。


グラムも。


ノア自身ですら。


言葉を失った。


選定者は笑う。


「なるほど」


「だから執行者が連れてきたのか」


執行者は何も言わない。


否定もしない。


それだけで十分だった。


ノアの胸に初めて疑問が生まれる。


偶然じゃない。


最初から。


自分はここへ来るように仕向けられていた。


そんな予感がした。


選定者は踵を返す。


「楽しみにしてるぞ」


そして。


塔のさらに上を見る。


「第三階層は特別だ」


笑う。


本当に楽しそうに。


「そこで全てが始まる」


風が吹く。


選定者の姿が消える。


残されたのは沈黙だけだった。


そして。


執行者が階段の先を見る。


初めて。


ノアへ向けて言葉を投げる。


「来い」


静かな声。


「お前が知りたかった答えがある」


ノアは黙る。


だが。


視線は既に上を向いていた。

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