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2-15 守るもの

第二章


焔帝編


第十五話


グラムは迷わなかった。


考えるより先に動いていた。


セレスへ向かって。


一直線に。


暴走する光が空間を埋め尽くしている。


塔が震える。


大地が軋む。


第二階層そのものが崩れ始めていた。


それでも。


グラムは止まらない。


「セレス!」


叫ぶ。


返事はない。


だが。


構わない。


届くまで叫ぶ。


それがグラムだった。


その前へ。


黒騎士が立つ。


巨大な剣。


圧倒的な存在感。


振り下ろされる。


轟音。


地面が割れる。


グラムは正面から受けた。


吹き飛ばされる。


だが。


すぐ立ち上がる。


再び走る。


黒騎士がもう一度立ちはだかる。


グラムが歯を食いしばる。


「邪魔だ!」


焔圧。


圧縮。


増幅。


解放。


全身が赤く輝く。


拳を握る。


剣ではない。


拳。


轟音。


黒騎士の胸へ叩き込む。


巨体が揺れる。


一歩。


二歩。


後退した。


グラムが笑う。


「通れ!」


さらに踏み込む。


だが。


その瞬間だった。


「違う」


ノアの声だった。


グラムの足が止まる。


黒騎士も動かない。


ノアは黒騎士を見ていた。


ずっと。


戦闘が始まってから。


ずっと。


セレスではなく。


黒騎士を。


グラムが振り返る。


「何がだ」


ノアは答えない。


ただ見ている。


観察している。


第一階層で執行者は言った。


自分を越えろ。


あの時。


ノアは理解した。


同じ考え方では先へ進めない。


だから今も。


目の前の現象を疑う。


常識を疑う。


敵だと思い込むことを疑う。


そして。


気付いた。


「こいつは攻撃していない」


静寂。


案内人が反応する。


初めてだった。


表情が動いたのは。


グラムが眉をひそめる。


「何?」


ノアは続ける。


「見ろ」


黒騎士を見る。


巨大な剣。


圧倒的な力。


だが。


グラムを殺せる場面が何度もあった。


それなのに。


殺していない。


押し返しているだけ。


近付かせないだけ。


それだけだ。


ノアは確信する。


「守っている」


静寂。


「セレスを」


グラムの目が見開かれる。


黒騎士を見る。


確かに。


そうだ。


攻撃ではない。


防衛だ。


ずっと。


最初から。


黒騎士はセレスを守っていた。


ノアはさらに気付く。


違和感。


もう一つ。


「違う」


小さく呟く。


「守っているのは俺達からじゃない」


案内人が息を呑む。


ノアはセレスを見る。


暴走する光。


崩れる空間。


砕ける大地。


そして。


涙。


セレスの頬を伝う涙。


無表情なのに。


涙だけが流れている。


「守っているのは」


ノアの声が静かに響く。


「セレス自身からだ」


静寂。


グラムが固まる。


案内人も。


黒騎士すら。


一瞬だけ動きを止めた。


その時だった。


セレスの瞳が揺れる。


ほんの僅か。


だが。


確かに。


光が戻る。


「……グラム」


小さな声。


今までで一番人間らしい声だった。


グラムが一歩前へ出る。


「セレス!」


セレスは笑った。


悲しそうに。


苦しそうに。


そして。


諦めたように。


「ごめんね」


光が膨れ上がる。


今までとは比較にならない。


第二階層全体が白く染まる。


案内人の顔色が変わる。


「まずい」


初めてだった。


本気で焦ったのは。


「聖女様が限界です」


ノアが睨む。


「何が起きている」


案内人は答える。


「選定に失敗した者は壊れる」


静かな声。


「心が耐えられなくなる」


グラムがセレスを見る。


セレスは泣いていた。


笑いながら。


泣いていた。


「守れない」


小さな声。


「誰も」


グラムは理解する。


初めて。


あの言葉の意味を。


セレスは弱かったんじゃない。


諦めたんじゃない。


守れなかったんだ。


大勢を。


何度も。


何度も。


だから。


壊れた。


光が暴走する。


世界が崩れる。


もう間に合わない。


誰もがそう思った。


その瞬間。


ノアの目に見えた。


光の流れ。


今まで見えなかったもの。


セレスを中心に渦巻く力。


感情。


絶望。


願い。


全てが一つに絡み合っている。


境界。


その力が。


初めて一歩先へ進んだ。


ノアは見た。


セレスの力ではない。


セレスを壊している何かを。


そして。


呟く。


「そこか」


静寂。


案内人が振り返る。


執行者も。


黒騎士も。


グラムも。


ノアを見る。


次の瞬間。


空間に剣の音が響いた。


チン。


あまりにも小さな音。


だが。


世界が止まる。


暴走していた光が静止する。


時間そのものが凍ったように。


セレスの前に。


一人の男が立っていた。


執行者。


いつの間に現れたのか。


誰も分からない。


執行者はセレスを見る。


そして。


初めて感情を滲ませた。


ほんの僅かに。


怒りにも似た感情を。


「まだだ」


静かな声。


だが。


その一言だけで。


暴走していた世界が沈黙した。


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