2-12 自分自身
第二章
焔帝編
第十二話
四人同時に地面を蹴った。
轟音。
最初に激突したのはグラムだった。
剣と剣。
巨大な衝撃波が第一階層を揺らす。
床が砕ける。
空気が裂ける。
だが。
互角。
偽物のグラムは一歩も動かない。
本物も。
動かない。
グラムが笑った。
「いいな」
久しぶりだった。
本気で楽しいと思えたのは。
偽物のグラムも同じ笑みを浮かべる。
全く同じだった。
動きも。
癖も。
構えも。
全部。
グラム自身だった。
「最高だ」
そう言って再び剣を振るう。
激突。
轟音。
炎が舞う。
いや。
炎ではない。
圧縮しきれなかったエネルギー。
焔圧。
二人の焔帝が正面からぶつかる。
第一階層の空間が悲鳴を上げていた。
⸻
一方。
ノアは違った。
動かない。
偽物も動かない。
二人とも。
ただ見ている。
観察している。
分析している。
沈黙。
数秒。
十秒。
二十秒。
先に動いたのは偽物だった。
短剣。
一直線。
最短。
最速。
無駄がない。
ノアは紙一重で避ける。
次の瞬間。
もう一振り。
さらにもう一振り。
止まらない。
全部。
自分なら選ぶ軌道。
自分なら狙う急所。
全部知っている。
だから厄介だった。
ノアは後退する。
偽物も追う。
静かな戦い。
だが。
致命的な戦いだった。
⸻
グラムの方は逆だった。
派手だった。
豪快だった。
岩が吹き飛ぶ。
空気が燃える。
衝撃波だけで地面が削れる。
だが。
決着がつかない。
グラムが笑う。
偽物も笑う。
まるで鏡だった。
「面白い!」
剣を振る。
「面白いな!」
もう一振り。
「だが!」
激突。
轟音。
そして。
グラムの笑みが消える。
気付いた。
違和感に。
⸻
強い。
⸻
自分より。
少しだけ。
⸻
強い。
⸻
偽物の剣が押し込んでくる。
ほんの僅か。
だが。
確実に。
グラムの目が細くなる。
「そういうことか」
執行者。
あいつは最初から言っていた。
敵を越えろ。
つまり。
これは自分じゃない。
自分を超えた自分だ。
⸻
ノアも同じだった。
偽物は知っている。
全部。
自分の思考を。
自分の癖を。
自分の判断を。
だから。
先を読む。
先回りする。
先に動く。
完全に上位互換。
ノアは初めて眉をひそめた。
勝てない。
普通なら。
⸻
その時だった。
執行者の声が響く。
「理解したか」
静かな声。
空間全体へ響く。
「お前達は弱い」
グラムが笑う。
「言うじゃないか」
執行者は続ける。
「お前達が戦っているのは過去だ」
静寂。
「お前達自身が作った限界だ」
ノアの目が細くなる。
グラムも聞いている。
執行者は言う。
「だから越えられない」
「だから届かない」
風が吹く。
そして。
最後に告げた。
「変われ」
その瞬間だった。
グラムの動きが止まる。
ノアも。
二人とも。
何かを考えていた。
偽物は止まらない。
襲い掛かる。
だが。
グラムは剣を下ろした。
ノアも武器を下ろした。
偽物が迫る。
普通なら死ぬ。
だが。
二人は動かない。
⸻
グラムが笑う。
「なるほど」
ノアも理解する。
「そういうことか」
試練は強さじゃない。
自分を超えること。
なら。
同じ戦い方をしている限り。
絶対に勝てない。
⸻
偽物の剣が迫る。
グラムは避けない。
代わりに。
拳を握った。
焔圧を。
剣ではなく。
拳へ。
初めて。
人生で一度もやったことがない戦い方。
偽物のグラムが一瞬だけ反応に遅れる。
その瞬間。
グラムの拳が叩き込まれた。
轟音。
偽物が吹き飛ぶ。
グラムが笑う。
「俺も成長してるんでな」
⸻
ノアも同じだった。
偽物は未来を読む。
思考も読む。
だから。
ノアは考えるのをやめた。
偽物が初めて止まる。
理解できない。
その一瞬。
ノアは短剣を捨てた。
そして。
拳を叩き込む。
偽物の顔面へ。
初めて選んだ。
合理性のない一手。
⸻
静寂。
偽物達が崩れる。
砂のように。
光の粒になって。
消えていく。
第一階層が静かになる。
グラムは拳を見た。
ノアは息を吐く。
そして。
執行者の声が響く。
「合格」
巨大な音と共に。
階段が現れた。
上へ続く階段。
果ての見えない。
塔の第二階層へ。
グラムが笑う。
「嫌いじゃない」
ノアも階段を見る。
そして思う。
この塔は。
強さを試しているんじゃない。
人を選んでいる。
もっと別の何かのために。




