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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-10 境界の塔

第二章


焔帝編


第十話


夜明け前。


帝都北門。


空はまだ暗い。


人影は少ない。


そこにいた。


案内人。


昨日と同じ笑顔。


昨日と同じ不気味さ。


まるで最初からそこにいたみたいだった。


グラムが近付く。


巨大な剣を背負ったまま。


ノアも隣に立つ。


案内人は微笑んだ。


「来ましたか」


「来ると言った」


グラムが答える。


案内人は頷く。


そして。


空を見上げた。


「では行きましょう」


次の瞬間。


世界が歪んだ。


ノアの目が細くなる。


景色が崩れる。


空。


地面。


城壁。


全部が溶ける。


まるで絵具を混ぜたみたいに。


色が流れる。


音が消える。


重力も消える。


そして。


気付く。


足元がない。


落ちている。


どこまでも。


どこまでも。


終わらない闇へ。


グラムが笑った。


「嫌いだなこれ」


案内人は平然としている。


「皆そう言います」


「皆?」


ノアが反応する。


案内人は答えない。


ただ。


微笑むだけだった。


やがて。


光が見えた。


白い光。


眩しいほどの。


そして。


世界が戻る。


足が地面へ着く。


風が吹く。


ノアは目を開く。


そして。


言葉を失った。


巨大だった。


塔。


ただ一つの塔。


空を貫いている。


雲を超え。


視界の果てまで伸びている。


見上げても終わりが見えない。


周囲には何もない。


森も。


山も。


街も。


存在しない。


塔だけ。


世界に一本だけ残された柱みたいに。


そこに立っていた。


グラムも見上げている。


そして。


珍しく。


黙った。


「これが」


ノアが呟く。


案内人が頷く。


「境界の塔です」


風が吹く。


静かな場所だった。


異常なほど。


鳥の声もない。


虫の音もない。


生き物の気配がない。


世界から切り離された場所。


そんな印象だった。


その時だった。


塔の入口が開く。


誰も触れていない。


勝手に。


ゆっくりと。


重い音を立てながら。


案内人が振り返る。


「歓迎されているようです」


グラムが鼻で笑う。


「嫌な言い方だな」


「よく言われます」


案内人は本当に気にしていないらしい。


そして。


塔の奥から足音が聞こえた。


コツ。


コツ。


コツ。


静かな音。


だが。


その場の空気が変わる。


グラムの笑みが消える。


ノアも反応する。


強い。


本能が告げていた。


今まで出会った誰よりも。


圧倒的に。


足音の主が現れる。


男だった。


黒い外套。


長い黒髪。


細身。


剣を一本腰に差している。


顔は若い。


二十代にも見える。


だが。


目だけが違った。


古い。


何百年も生きてきたみたいな目だった。


男は三人を見る。


そして。


静かに口を開く。


「遅かったな」


案内人が頭を下げる。


初めてだった。


誰かに頭を下げたのは。


「申し訳ありません」


静寂。


グラムの目が細くなる。


理解した。


案内人より上。


この男が。


男はグラムを見る。


次にノアを見る。


そして。


小さく頷いた。


「なるほど」


その一言だけ。


だが。


まるで全てを見透かされたようだった。


ノアの背筋が冷える。


男は続ける。


「聖女は上にいる」


グラムが一歩前へ出る。


「生きているんだな」


「生きている」


即答。


グラムは安堵する。


だが。


男の次の言葉で空気が凍った。


「今のところは」


静寂。


グラムの手が剣に伸びる。


男は気にしない。


ただ。


塔の上を見上げる。


そして。


言った。


「登れ」


風が吹く。


「資格があるなら会える」


「なければ死ぬ」


あまりにも自然に。


天気の話をするみたいに。


言った。


ノアが聞く。


「お前は誰だ」


男は少し考える。


そして。


答えた。


「執行者」


その瞬間。


世界が静止した気がした。


案内人が目を伏せる。


グラムは笑わない。


ノアも言葉を失う。


執行者。


初めて名前が与えられた。


黒い影に。


世界最強を敗北させた存在に。


男は振り返る。


そして。


塔の奥へ消えていく。


最後に一言だけ残して。


「選定を始める」


巨大な扉が閉じる。


轟音。


静寂。


残されたのは。


天を貫く塔と。


その入口に立つ三人だけだった。


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