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2-8 聖女消失

第二章


焔帝編


第八話


酒場から出た時には雨は止んでいた。


だが。


グラムの表情は晴れなかった。


珍しかった。


本当に珍しく焦っていた。


「どこだ」


歩きながら聞く。


伝令が答える。


「最後の目撃は北部国境付近です」


「護衛は」


「全滅」


静寂。


グラムの目が細くなる。


ノアも黙る。


セレスは弱くない。


五英雄の一角。


世界でも数えるほどしかいない強者だ。


その護衛部隊ごと消えた。


異常だった。


帝国軍本部へ到着すると緊急会議が開かれた。


神聖国から派遣された使者。


帝国軍幹部。


そしてグラムとノア。


巨大な地図が机に広げられる。


最後の目撃地点。


移動経路。


護衛部隊の配置。


全て書き込まれていた。


だが。


決定的な情報はない。


「襲撃か」


グラムが聞く。


神聖国の使者は首を振った。


「分かりません」


「戦闘跡もありません」


ノアが顔を上げる。


レナード。


ベルグ。


同じだ。


人だけが消える。


戦闘の痕跡がない。


誰かが呟いた。


「黒い影か」


会議室が静まり返る。


誰も否定できなかった。


神聖国の使者が一枚の紙を取り出す。


「これが最後の報告です」


グラムが受け取る。


数秒見つめる。


そしてノアへ渡した。


紙には一行だけ書かれていた。


私は追います


セレスの筆跡だった。


グラムが頭を抱える。


「馬鹿か」


本気だった。


「単独で追ったのか」


誰も答えられない。


だが。


可能性は高い。


セレスならやる。


誰かを危険へ巻き込みたくない。


そう考える女だからだ。


会議は深夜まで続いた。


だが。


結局。


何も分からなかった。


屋上へ出る。


帝都の夜景が広がっている。


風が強い。


グラムは黙って空を見ていた。


やがて。


静かに言う。


「行くぞ」


ノアが振り向く。


「どこへ」


「探しにだ」


迷いはなかった。


「罠かもしれん」


「知ってる」


「死ぬかもしれん」


「知ってる」


「なら何故行く」


グラムは少しだけ笑った。


「友達だからだ」


ノアは黙る。


グラムは続ける。


「助けたい理由に理屈なんているか?」


風が吹く。


単純だった。


驚くほど。


だが。


グラムらしかった。


その時だった。


背後から声がした。


「その通りです」


二人が振り返る。


そこに立っていたのは一人の神官だった。


若い男。


整った顔立ち。


柔らかい笑み。


神聖国の人間に見える。


だが。


何かがおかしい。


ノアは本能的に感じた。


危険だと。


男は二人を見る。


そして微笑んだ。


「聖女様は生きています」


静寂。


グラムの目が細くなる。


「お前は誰だ」


男は笑みを崩さない。


「案内人ですよ」


その瞬間。


ノアの背筋に寒気が走った。


黒い影とは違う。


もっと嫌な感覚。


人間の形をしているのに。


人間に見えない。


男は夜空を見上げる。


そして静かに言った。


「選定が始まります」


風が止まる。


グラムも。


ノアも。


何も言わない。


男は続ける。


「来てください」


「世界の外側へ」


静寂。


グラムの手が剣へ伸びる。


男は笑った。


「安心してください」


「まだ敵ではありません」


その言葉が。


何より信用できなかった。

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