2-6 完敗
第二章
焔帝編
第六話
ベルグ要塞都市消滅。
人口十万。
生存者ゼロ。
その報告は帝国全土を震撼させた。
共和国の都市ではない。
神聖国でもない。
今度は帝国だった。
グラムは翌朝には出発していた。
ノアも同行する。
二人とも無言だった。
冗談を言う気分じゃない。
⸻
三日後。
ベルグへ到着する。
そして。
絶句した。
消えた。
本当に。
都市が。
巨大な城壁。
軍事施設。
兵舎。
住宅。
全部。
残っている。
なのに。
人だけがいない。
レナードと同じだった。
だが。
今回は違う。
広場の中央。
地面に何かが刻まれていた。
巨大な剣傷。
長さ百メートル以上。
グラムは傷へ近付く。
しゃがみ込む。
指でなぞる。
そして。
立ち上がった。
表情が消えている。
「どうだ」
ノアが聞く。
グラムは答える。
「同じだ」
「鐘楼の傷と」
静寂。
グラムが続ける。
「いや」
数秒。
沈黙。
そして。
初めて認めた。
「こっちの方が上手い」
風が吹く。
ノアも黙る。
世界最強。
その男が二度目の敗北を認めた。
⸻
その時だった。
グラムが突然空を見る。
ノアも反応する。
気配。
誰かいる。
高い。
遥か上空。
雲の近く。
黒い影。
いた。
本当に。
そこに。
グラムの目が細くなる。
「いたぞ」
ノアも見る。
黒い外套。
人影。
動かない。
ただ見ている。
それだけ。
次の瞬間。
グラムが消えた。
轟音。
地面が砕ける。
圧縮。
増幅。
解放。
全身へ。
世界最強の加速。
一瞬で空へ。
ノアですら目で追えない。
グラムが飛ぶ。
黒い影へ。
初めてだった。
世界最強が本気で追うのは。
⸻
そして。
届いた。
グラムの剣が振り下ろされる。
必殺。
帝国軍すら見たことがない一撃。
だが。
当たらない。
黒い影は動かなかった。
避けてもいない。
防いでもいない。
ただ。
そこにいた。
なのに。
剣が届かない。
距離はゼロ。
確かに届いている。
それなのに。
届かない。
グラムの顔から笑みが消える。
初めてだった。
本当に。
初めて。
⸻
黒い影が口を開く。
「未熟」
静かな声。
男でも女でもない。
不思議な声だった。
グラムが睨む。
「何者だ」
返事はない。
代わりに。
黒い影が剣を見る。
グラムの剣を。
そして。
小さく言った。
「まだ届かない」
次の瞬間。
空が揺れた。
ノアが目を見開く。
グラムも。
黒い影は何もしていない。
ただ。
剣を一振りしただけ。
それだけ。
雲が割れた。
空が裂けた。
遥か彼方まで。
一直線に。
世界そのものが斬られたみたいに。
⸻
静寂。
グラムが固まる。
ノアも。
言葉を失う。
理解できない。
次元が違う。
そんな言葉ですら足りない。
⸻
黒い影は振り返る。
そして。
去ろうとする。
グラムが叫ぶ。
「待て」
黒い影が止まる。
ほんの少しだけ。
振り返る。
そして。
最後に一言だけ残した。
「選定は近い」
意味が分からない。
ノアも。
グラムも。
誰も。
⸻
黒い影は消えた。
最初からいなかったみたいに。
空から。
完全に。
⸻
地上へ戻ったグラムは黙っていた。
ノアも何も言わない。
数分。
沈黙。
やがて。
グラムが笑った。
乾いた笑いだった。
「負けたな」
静かな声。
悔しさも。
怒りも。
全部混ざっていた。
「初めてだ」
世界最強。
焔帝グラム。
その男が。
真正面から。
敗北を認めた。
⸻
ノアは空を見る。
黒い影。
選定。
消えた都市。
そして。
自分達の知らない世界。
戦争を終わらせる。
そんな話じゃないのかもしれない。
もっと大きな何かが。
動いている。




