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英雄狩り 〜世界最強の英雄を倒せば戦争は終わる。そう思っていた〜  作者: Toi
第2章 焔帝編

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2-3 消えた都市

第二章


焔帝編


第三話


北方都市レナード。


人口三万。


神聖国北部最大級の交易都市。


その街に。


人はいなかった。


静かだった。


異様なほど。


風だけが吹いている。


ノアは街の入口で立ち止まった。


隣にはグラム。


少し離れてセレス。


三人とも無言だった。


理由は同じ。


理解できないからだ。


街は残っている。


建物も。


市場も。


宿屋も。


教会も。


全部。


残っている。


なのに。


人だけがいない。


グラムが石畳にしゃがみ込む。


指で地面をなぞる。


「血がないな」


ノアも周囲を見る。


確かに。


死体がない。


血痕もない。


争った痕跡もない。


まるで。


人だけが消えたみたいだった。


グラムが立ち上がる。


「気に入らんな」


本気だった。


戦場なら分かる。


英雄なら分かる。


殺意なら分かる。


だが。


これは分からない。


だから気に入らない。


ノアは街を歩き始めた。


市場。


住宅街。


工房区画。


全部見る。


何もない。


異常なほど何もない。


その時だった。


一軒の民家で足が止まる。


机の上。


開いたままの日記帳。


ノアは手に取った。


数日前の日付。


普通の日常。


商売。


収穫。


家族との会話。


どこにでもある内容。


だが。


最後のページだけ違った。


文字が震えている。


乱れている。


焦って書かれたことが分かる。


そこには一行だけ書かれていた。



見られている



ノアの目が細くなる。


続き。



空から



そこで終わっていた。


グラムも覗き込む。


「空か」


ノアは答えない。


セレスも読む。


三人とも自然と同じものを思い浮かべていた。


黒い影。


だが。


証拠はない。


何も。


グラムは日記を閉じた。


「嫌な感じだな」


ノアも同意だった。


戦争ではない。


英雄でもない。


もっと別の何か。


その時だった。


セレスが足を止める。


教会の鐘楼。


その上を見ていた。


「どうした」


ノアが聞く。


セレスは答えない。


ただ。


一点を見つめる。


ノアも。


グラムも。


視線を追う。


鐘楼の先端。


そこに一本の傷があった。


小さい。


だが。


異様に深い。


グラムが跳んだ。


一瞬で鐘楼の上へ到達する。


傷を触る。


角度。


深さ。


幅。


全部を見る。


そして。


笑みが消えた。


ノアが見上げる。


「どうした」


グラムはしばらく答えなかった。


珍しかった。


やがて。


静かに言った。


「剣だ」


「剣?」


「ああ」


グラムは傷を見つめる。


そして。


続けた。


「上手い」


風が止まる。


ノアは黙る。


セレスも黙る。


グラムが誰かを褒める。


それ自体が異常だった。


「俺より上だ」


静寂。


セレスの目が細くなる。


ノアも言葉を失った。


世界最強。


焔帝グラム。


その男が。


自分より剣が上だと言った。


初めてだった。


そんなことを。


グラムは空を見上げる。


「面白くなってきたな」


だが。


今までの笑顔じゃない。


獲物を見つけた笑顔ではない。


強敵を見つけた顔だった。



その日の夕方。


セレスは神聖国へ戻ることを決めた。


「調査を続けます」


ノアが頷く。


グラムも頷く。


セレスは二人を見る。


少しだけ迷う。


そして。


言った。


「死なないでください」


グラムが笑う。


「誰に言ってる」


「二人にです」


即答だった。


ノアは黙る。


グラムは笑う。


「善処する」


「信用できません」


珍しく。


セレスも少しだけ笑った。


そして去っていく。


神聖国軍も。


白銀の旗と共に。



残ったのは二人だった。


ノア。


グラム。


静かな街。


風だけが吹いている。


グラムが聞く。


「で?」


ノアは振り向く。


「何だ」


「次は何をする」


静寂。


以前のノアなら答えていた。


帝国を潰す。


英雄を殺す。


迷わず。


だが。


今は違う。


ノアは街を見る。


人の消えた都市。


黒い影。


グラム。


セレス。


英雄候補。


全部思い出す。


そして。


長い沈黙の後。


初めて言った。


「分からん」


グラムが固まる。


「は?」


ノアは続ける。


「英雄を殺せば終わると思った」


風が吹く。


「違った」


「帝国を負かした」


「終わらなかった」


「セレスにも会った」


「余計に分からなくなった」


静寂。


ノアは空を見る。


答えがあった。


そう思っていた。


だから進めた。


だから殺せた。


だから戦えた。


だが。


今は違う。


初めて。


分からなくなった。


グラムはしばらく黙っていた。


そして。


笑った。


「そうか」


ノアが見る。


グラムは肩に剣を担ぐ。


「なら探せ」


「何を」


「答えを」


風が吹く。


夕日が街を照らす。


グラムは歩き出す。


「戦争なんてな」


振り返らないまま言う。


「分かった気になった奴から間違える」


ノアは黙って聞いていた。


世界最強の英雄。


その背中を見ながら。


初めて思う。


もしかしたら。


自分はまだ。


戦争を何も知らないのかもしれない。


グラムは歩く。


ノアも歩く。


消えた都市を後にして。


それぞれの答えを探すために。

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