2-2 消滅
第二章
焔帝編
第二話
黒い人影は消えた。
空には何もない。
雲だけ。
風だけ。
だが。
その場にいた全員が理解していた。
見間違いではない。
グラムが空を睨む。
「気に入らんな」
珍しかった。
世界最強の英雄が。
誰かを不快に思うのは。
セレスも空を見ている。
「敵意はありませんでした」
「そうか?」
グラムが聞く。
「俺には見下されてるように見えた」
セレスは否定しなかった。
実際。
少しそう見えた。
ノアだけは黙っている。
考えていた。
あの視線を。
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見ていた。
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そんな感覚だった。
英雄も。
軍隊も。
国家も。
全部。
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観察していた。
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まるで。
実験動物を見るように。
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「知ってるのか」
グラムが聞いた。
ノアは首を振る。
「知らん」
本当だった。
だが。
気になる。
英雄より。
セレスより。
グラムより。
遥かに。
⸻
気になる。
⸻
その時だった。
神聖国側から騒ぎが起きる。
神官達が駆けてくる。
慌てた様子。
セレスの前で跪く。
「聖女様!」
「何ですか」
神官は報告書を差し出した。
顔色が悪い。
異常なほど。
セレスが目を通す。
そして。
初めてだった。
表情が消えた。
完全に。
グラムが眉をひそめる。
「何だ」
セレスは答えない。
数秒。
沈黙。
やがて。
静かに言った。
「北方都市レナード」
「消滅しました」
静寂。
誰も理解できない。
グラムが聞く。
「消滅?」
「はい」
セレスは報告書を見る。
「人口三万人」
「生存者ゼロ」
風が止まる。
リゼが顔を青くした。
「戦争ですか」
「違います」
セレスは首を振る。
「戦闘の痕跡がない」
今度はノアが反応した。
戦闘がない。
なのに。
都市が死んだ。
あり得ない。
グラムも笑わなくなった。
「英雄か?」
セレスは首を振る。
「不明です」
神官が続ける。
震えながら。
「目撃証言があります」
全員が振り向く。
神官は唾を飲む。
そして。
言った。
「黒い外套の男です」
静寂。
グラムの目が細くなる。
セレスも。
ノアも。
全員同じことを考えていた。
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さっきの奴だ。
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グラムが笑った。
だが。
今までとは違う。
獲物を見つけた笑み。
「面白い」
セレスが睨む。
「面白くありません」
「俺は面白い」
「不謹慎です」
「知ってる」
リゼが頭を抱える。
この二人。
相性が悪い。
凄く。
⸻
ノアは空を見る。
黒い影。
正体不明。
都市消滅。
生存者ゼロ。
そして。
英雄ですら知らない。
その存在。
⸻
「探す」
⸻
静かな声だった。
セレスが見る。
グラムも見る。
ノアは続ける。
「そいつを探す」
グラムが笑った。
「奇遇だな」
巨大な剣を担ぐ。
「俺もだ」
セレスも言う。
「私もです」
静寂。
リゼが呟く。
「嫌な予感しかしない」
クロードが頷く。
「分かる」
⸻
英雄狩り。
焔帝。
聖女。
三人の目的が。
初めて一致した。
そして。
誰も知らない。
この黒い影との出会いが。
世界の裏側へ続く入口になることを。
風が吹く。
遥か遠く。
誰もいない空の上。
黒い外套の男は笑っていた。
まるで。
全て予定通りだと言うように。




