4-38 役目の終わり
第四章
七賢者編
第三十八話
神殿に重い沈黙が流れる。
執行者はゆっくり歩く。
一定の歩幅。一定の呼吸。まるで機械だった。
「育成者。役目は終わったか。」
アベルは静かに頷く。
「ああ。終わった。」
執行者は足を止める。
「ならば。次の任務へ移れ。」
アベルは首を横に振った。
「断る。」
その一言だけだった。神殿の空気が凍る。
執行者は瞬き一つしない。
「命令だ。従え。」
アベルは笑った。穏やかだった。
「命令には従った。」
「英雄を育てろ。私は育てた。だから。終わりだ。」
執行者の手が剣へ伸びる。
「終わりを決めるのはお前ではない。」
アベルは小さく息を吐く。
「そうか。」
ゆっくり振り返る。
バルドを見る。ガイアスを見る。アイリスを見る。
セレスを見る。最後に。グラムを見る。
誰も言葉を発せない。アベルは優しく笑う。
「強くなった。全員。私の想像より。」
その笑顔は。師匠そのものだった。
グラムが一歩前へ出る。
「師匠。七賢者なんて辞めろ!一緒に来い!」
アベルは首を横に振る。
「もう必要ない。」
グラムは叫ぶ。
「必要だ!俺はまだ師匠を超えてない!」
アベルは笑った。
「超えたよ。」
静かな一言。
「だから、私はもう必要ない。」
グラムは叫ぶ。
「……ふざけるな。勝手に決めるな。」
アベルはゆっくり剣を抜いた。全員が身構える。
しかし切っ先は。自分の胸へ向いていた。
「!!」
セレスが叫ぶ。
「やめて!」
バルドが駆ける。
「やめろ!」
アベルは誰も見ない。ただ静かに空を見上げる。
「英雄は。師を超えた時に完成する。」
「それを見届けるのが私の役目だった。」
グラムは泣きながら首を振る。
「違う!まだ終わってない!師匠!」
アベルは最後に微笑んだ。
「終わったよ。グラム。」
その名前を呼んだ瞬間。剣が胸を貫いた。
鮮血が舞う。神殿が静まり返る。
アベルは崩れ落ちながら最後に呟く。
「炎も。」
「重力も。」
「幻も。」
「光も。」
「盾も。」
苦しそうに笑う。
「全部。私が授けた。」
誰も動けなかった。
「だがその力を。英雄にしたのは。」
血を吐く。それでも笑う。
「……お前達だ。」
剣が床へ落ちる。
カラン。
静かな音が響いた。アベルは動かない。
グラムが震える足で近寄る。
「師匠!!!」
返事はない。肩を抱く。身体が冷たかった。
その瞬間。執行者が静かに口を開く。
「愚かだ。役目を放棄した。故に。処分は不要となった。」
グラムがゆっくり立ち上がる。
炎が燃え上がる。
誰よりも激しく。
「処分?……殺す。」
低い声だった。執行者は初めてグラムを見る。
「来るか。」
グラムは答えない。炎だけが神殿を包み込む。セレスが叫ぶ。
「グラム!」
止まらない。グラムは剣を握る。その瞳には。
怒りしかなかった。炎帝は執行者へ向かって走り出した。




