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英雄狩り 〜最初の獲物を狩った日、世界は俺を敵にした〜  作者: Toi
第4章 七賢者編

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4-35 育成者

第四章


七賢者編


第三十五話


認識世界が崩壊した。

白い空間は砕け散り、セレスは現実へと投げ出される。


「……っ!」


床へ膝をつく。折れた左腕が悲鳴を上げた。

荒い息を整える間もなく、神殿全体を揺らす轟音が響く。


――ドォォォン!!


「バルド!」


セレスは反射的に駆け出した。


巨大な柱を抜けた先。

そこには、想像を超える光景が広がっていた。


巨大な盾が宙を舞う。鈍い音を立て、壁へ激突する。

その直後。血飛沫が舞った。


「ぐっ……!」


バルドだった。


全身が血に染まり、鎧は原形を留めていない。

愛用の大盾には無数の亀裂が走り、その半分は砕け散っていた。


それでもバルドは倒れない。盾を杖代わりに立ち上がる。


その視線の先。一人の男が静かに立っていた。


細身の体。飾り気のない黒い外套。腰には一本の剣。


それだけだった。


派手な魔力もない。威圧感もない。


なのに、その場の空気だけが異様だった。


男はゆっくり口を開く。


「まだ立つか。」


静かな声だった。


バルドは血を吐きながら笑う。


「……当たり前だ!守るって決めた。だから立つ!」


男は僅かに目を細めた。


「そうか。いい答えだ。」


次の瞬間だった。男の姿が消える。


「!!」


セレスの目でも追えなかった。


ガァン!!


衝撃。バルドの盾へ剣が触れた。

それだけ。それだけだった。


巨大な盾が数メートル吹き飛ぶ。

バルドも一緒に宙を舞い、地面を何度も転がった。


「……っ!」


セレスは息を呑む。


グラムでも。ガイアスでも。

ここまで一撃でバルドを吹き飛ばせる者はいない。


男は追撃しない。ただ立っている。


まるで試しているようだった。


「立て。」


静かな声。


「まだ終わっていない。」


バルドは歯を食いしばる。震える腕で盾を拾う。立つ。


男は小さく頷いた。


「成長したな。」


「……?」


バルドは眉をひそめる。


「何の話だ?」


男は答えない。ゆっくり剣を鞘へ納める。


その姿を見ていたセレスに対しても男は視線を向けた。


二人の視線が交わる。男は僅かに目を細める。


「光か。」


「……。」


セレスは思わず身構えた。自分の能力を知っている。

そんな口ぶりだった。


「お前は誰だ?」


問い掛けるが男は答えない。


代わりにもう一度だけバルドを見る。


「来い。もう一度私に見せろ。」


その言葉にバルドは再び盾を構えた。

血が流れる。腕は震えている。

それでも一歩踏み出した。


その時だった。


「バルド!!」


神殿の奥から声が響く。


振り返る。


そこには炎を纏った男が立っていた。グラム。


その後ろにはガイアスとアイリス。


三人はセレスの姿を確認し、安堵する。


しかし、次の瞬間。グラムの表情が止まった。

男の背中を見たまま微動だにしない。

誰も声を掛けられない。


長い沈黙。


やがて。


グラムが信じられないものを見るように、小さく呟いた。


「…………師匠?」


男の肩が。


ほんの僅かに止まった。

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